コラム

「まん防」を踊らされる日本国民に問い掛けたいこと

2022年01月25日(火)16時15分

5回防衛戦に勝っているチャンピオンの日本だが、今回のタイトルマッチの対戦相手は手ごわい。オミクロン株は感染力が強い上、無症状の感染者も多くて、気付かずに他人にうつすことも多いという。ワクチン接種率が90%弱で都市封鎖も躊躇わない、世界一感染対策が厳しい中国でも、7つの第一級行政区(省・直轄市・自治区)と全ての大都市でオミクロン感染が確認されている

一方、人口の4割近くがワクチン接種をいやがる、「アメリカ人の権利だから」とマスク着用を拒む人も多い(マスク関連のトラブルで少なくとも8人が殺されている)、違う意味で「厳しい」アメリカでは、一日の感染者数が1月中旬時点で平均80万人を超え、毎日2000人近くが亡くなっている。オミクロン株は毒性が弱いとはいえ、このままだと今回の波が収まるまでに5万~30万人もの命が新たにを失われるとされる。

中国式で戦ってもアメリカ式で戦ってもオミクロンの勝ちと言えそう。(アメリカの場合、不戦勝にも少し見えるが)。そこで日本式の勝算はあるのか。

国民的作戦会議が必要

僕はとりあえず日本式でやってみるべきだと思う。この2年でマスク着用と消毒の習慣が国民の日課になっているし、普段からハグやキスなど、欧米でみられる「濃厚接触」もしない。そういう文化由来の防御力がある。その上、お願いベースでも営業時間を短縮したり、都道府県間移動をやめたり、(少なくともパックンマックンの)講演会をすぐ延期したりして、政府の呼び掛けに協力してくれる、国民性由来の忍耐力もある。勝ち目はある!

ただ、敗戦してしまう可能性も念頭に、次の段階の議論も進めないといけない。まん延防止で抑え込みに失敗した場合、緊急事態を宣言する?協力しないお店への罰則を積極的に科す?岸田さんがいう「日本型ロックダウン」を試す?中国型の本格的な都市封鎖に挑む?

それとも、日本もウィズコロナを目指すのか。欧米でやっているように、感染者、濃厚接触者の隔離期間を短縮する?行動制限を廃止する?一日数百人の死亡者を想定内として経済活動を優先する?氷点下の中、上半身裸でスポーツ観戦する?

全部の可能性と選択肢を今のうちに検証しておきたい。さらに、オミクロンのような高い感染力に加えデルタ株のような強い毒性を持つ、恐ろしい新株が現れたシナリオも念頭に、作戦会議しないといけない。

それも専門家、医療従事者、政治家だけではなく、国民や住民もやるべきことだ。僕らはどれぐらいのリスクを負い、どれぐらいの犠牲に耐えられるか、経済活動と公衆衛生を天秤にかけたときの「価値観」を今のうちに確認しておこう。政府は「民意」に沿って政策を決める責任はあるが、同時に国民はその民意を定める責任もあるだろう。

そうしないと、僕らの気持ちが反映されないまま政策が勝手に決められ、発表され、国民が政府に踊らされることになってしまう。Mamboだけにね。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story