コラム

トランプ元側近で「極右」のスティーブ・バノンに会ってきた!

2019年03月23日(土)14時00分

大統領側近時代は「トランプの頭の中にいた」とも言われるバノンだが Carlos Barria-REUTERS

<来日していた元大統領首席戦略官のバノンに取材をし、なぜ彼が嫌われ者なのかを考えてみた――>

政治経験のないリアリティーテレビのスターが初めて挑戦した選挙で大統領になった。そんなシンデレラストーリーの主人公がドナルド・トランプなら、変身させたフェアリー・ゴッドマザーはスティーブ「ビビディ・バビディ」バノンだろう。

ウォール街やハリウッドで莫大な財を成した後、「ブライトバート」をright wing(右翼)ニュースサイトの最大手に育てたスティーブ・バノンは、選挙まで残り三カ月のところでカオス状態に陥っていたトランプの選対本部を導き、奇跡の逆転勝利劇を演出した。そして、トランプが大統領に就任してから1年半、バノンはブレーンとして常にそばにいた。ずっとトランプの頭の中にいた、と言う人もいる。陰から操っていた、と言う人もいる。

満月の夜に狼に化けて、幼稚園児の血を吸って生きている――と、さすがにそこまで言う人はいないが、それに近いニュアンスでバノンを猛烈に批判する人は多い。反トランプのリベラル・メディアは当然、トランプ支持の保守派メディアにも、そして両方の視聴者にも、各派の国民にもアンチ・バノンは多くいる。これだけ嫌われている人に......僕は会いたい!

そう思って、先日、ニンニクや十字架、銀の弾丸(化け物退治に使われる)を手に、来日中のバノンの取材に挑んだ。

Little guy(低所得の一般人)の代表を自称するバノンは、皇居を見下ろす超高級ホテルの20階角部屋スイートルームのソファに座っていた。黒いジャケットを来て、トレードマークの無精ひげもなく、髪型は比較的整っていた。笑顔で挨拶を交わした後、彼は部屋のすみっこでこそこそ話をしていたスタッフたちに「Knock it off!(やめろよ)」と注意して、真剣モードに切り替わる。最初の印象は悪くない。自信を持っていて、常に会話の中心にいる権力者そのものだ。

話し方も自信にあふれている。政治学の用語を混ぜながら、歴史や時事からの例を挙げて、大きな主張を繰り返す。時間を独り占めして、情報量で相手を圧倒する。反論を防ぐために実に有効な話術だ。でも、僕にも手がある。コラム執筆だ! 結局、ここでもバノン中心の話になるけどね。
 
それでは早速、「なぜバノンが嫌われているのか」の旅に参ろう!
 
バノンのライフワークはEconomic-nationalism(経済的ナショナリズム)の啓発。トランプに出会う10年ほど前から民主迎合主義、国家主義の普及活動に取り組んでいる。その主なポイントは関税などで自国の産業を守り、移民規制で自国の国民の雇用を守ること。今は特に、世界制覇を目指す中国の習近平政権に対する警戒を呼び掛ける運動をしている。

「ヨーロッパ、北米、韓国や日本は主権と自由を代表する国々。世界秩序を維持する民主主義の力となり、中国共産党が広げる全体主義・重商主義社会に立ち向かわないとだめだ」と力強く断言する。

なるほど。難しい単語を羅列していて、実演販売のときのよく磨かれた営業トークみたいに感じられるが、別に非常識なことを言っているとは思わない。少し大げさだけど、多くの政治家やアナリストの主張によく似ている。さらに、バノンが進める保護主義はもともと労働者寄りのリベラル派がお気に入りの政策。欧米の民主主義社会と価値観を優先する保守派にも響くレトリックだ。日本でも似たような論点をよく聞く。この主張だけだったら、バノンは大して憎まれないし、恐れられないはず。残念! 

残念じゃないけど、旅は続く。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story