コラム

ゲーリー・ハートで考える「政治家の不倫はOK?」

2019年01月24日(木)18時40分

愛人報道で大統領選から消えたゲイリー・ハート(画像は86年にエジプトを訪問した際に撮影) Khaled Abdullah Ali Al Mahdi-REUTERS  

<政治家の不倫が無視してもらえなくなった転換点は、88年米大統領選の最有力候補だった男のスキャンダルだった>

アメリカで超有名でも、日本ではあまり知られていない政治家の不倫騒動は何か、分かる? 答えられなくても当然だ。むしろ、「知られていない」と本人が言っているから、答えられたら困る。正解は、「最も優秀な幻の大統領」と呼ばれるゲーリー・ハートの不倫騒動。

その歴史的な逸話を軽く紹介しよう。

時は1987年。アメリカのコロラド州に若くて、格好良くて、世界を変えようとしている男がいた。それが......この僕だ。僕は高校生で、間もなく参政権が手に入る歳だった。政治に目覚めたそんなとき目に入ったのは、ちょうど同じコロラドにいた、ちょうど同じぐらい格好いい男。大統領選予備選の民主党候補、ゲーリー・ハートだ。

戦後の歴史の中で、同じ政党が3回連続、米大統領選に勝ったことはなかった。ロナルド・レーガンの時代、共和党が8年間ずっと大統領の座にあったから、88年の大統領選挙では民主党候補がほぼ100%で勝つと思われていた。そのときのフロント・ランナー(最有力候補)だったゲーリー・ハートは注目の的だった。

大統領候補というと、だいたい味気ないおじいさんばかり。84年の民主党候補、ウォルター・モンデールもそうだった。88年の共和党候補、ジョージ・ブッシュもそうだ。でも、ハートは違う。パッションがある。演説がうまい。人を引き付けるカリスマ性がある。そんな彼に、僕も含めて周りの若者はみんな、まさにハートを射貫かれた。

当時、僕はハートの政策にも感心していたが、それがどんなにすごいものだったのかは分からなかった。今だから分かるのは、ハートにはすごい先見の明があったということ。彼はスティーブ・ジョブズがまだ車庫で物いじりしているときに会いに行き、その後、全国の教室にパソコンを設置するように呼び掛けた。誰よりも先にインフォメーション・エコノミー(情報経済)の到来やソ連の崩壊を予測した。そして政界から退いた後でも、9・11テロ攻撃の半年以上前に、テロリストが飛行機を使ってアメリカを攻撃する危険性を指摘した。

ハートはなんでも先を読んでいた! でも、自分の墜落は見えなかったのだろう。

数年前からハートの女性問題に関しては、いろいろとうわさがあった。でも、うわさぐらいなら大物政治家にとっては大したダメージにならないはず。というのも、過去にも数々のうわさが飛び交う中で大統領になり、大統領の仕事を全うした人は山ほどいたから。

トマス・ジェファソンは奴隷の女性との間に隠し子がいた。ウォーレン・ハーディング、グローバー・クリーブランド、フランクリン・ルーズベルトなどなどには女性の愛人がいた。アンドルー・ジャクソンには男性の愛人がいた。ジョン・F・ケネディはあのマリリン・モンロー以外にも、フランク・シナトラから紹介された複数の女性と不適切な関係を持ちまくっていた。でも大したことない! 次のリンドン・ジョンソン大統領は「ケネディががんばって落とした人数より、俺がたまたま落とした女が多いぞ」と自慢していたという。大統領というのはとにかくお盛ん!

こんなうわさ、ツイッターがない時代から常に呟かれていたのだ。でもそれにメディアが目をつぶる「紳士協定」が200年も続いていた。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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