コラム

スワローズ戦の3塁席で僕が失った表現の自由

2017年07月20日(木)12時40分

3塁側のビジター応援席に座ることで表現の自由を失った僕は、いつもよりも悔しい思いで試合を見始めた。でもこの思いは初めてではない。アメリカ育ちの僕が日本で暮らしながら、定期的に経験する種類のものなのだ。超大好きな国だが、言論の許容範囲が狭すぎるとよく感じる。

幼稚園のときから子供たちは全員同じ帽子、体育着、上履きを身に着ける。受験勉強で同じ情報を与えられ、試験で同じ答えを求められる。成人すると同じリクルートスーツを着て、就活マニュアルで同じ模範解答を参考にする。入社式の写真を見ると、企業側も同じ服装、同じ髪型の、同じような人を採用している。

球場でも同様の現象が起きるようだ。アメリカみたいに適当に席を選び、好きな言葉と自分のタイミングで応援したり、野次ったりはしない。日本では、自分と同じチームのファンに囲まれるように座り、周りと同じコールを同じタイミングで大合唱する。最初は驚いたが、社会の傾向を見れば、これは当然の結果かもしれない。実は慣れると楽しいし。だいたいのコールは普通に覚えてるよ。Go, Go Swallows!

【参考記事】大学も就職も住宅も「損だらけ」のイギリスの若者たち

そう。僕は自分の順応性の高さを自負している。周りに合わせることができるからこそ、低空飛行で日本の芸能界で20年も飛び続けることができていると、十分自覚しているのだ。だから、その日はもちろん球場のルールを守った。しかも、回りにあわせて少し日ハムを応援してみたら、それなりに楽しかった。日ハムが勝ったし。でも、やはり違和感は払拭できない。応援したチームが勝つことに慣れていないからかもしれないけどね。

いや、それだけではないかな。僕の持論だが、学校も企業も政府も目標に掲げている「想像力、発想力、コミュニケーション能力アップ」を実現したいんだったら、普段から、そして子供の頃から、もっと国民に自由な行動と表現をさせるようにしないといけない。

国民が自ら、自分と違った意見の持ち主を近くに置くようにしないといけないとも思う。教室でも会議でも、そして球場でも、見解や価値観のダイバーシティを志すことが大事。相手チームの応援を禁じるのではなく、むろん促すべきではないか。フィールドだけではなく、スタンドでもぜひ交流戦にしよう。


プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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