コラム

芸人もツッコめない? 巧みすぎる安倍流選挙大作戦

2016年07月14日(木)15時00分

 最後に、安倍さんの強みは党内の統率にもある。今の自民党には昔みたいに「与党内の野党」となる派閥がない。小選挙区制度で党の公認による「勝敗に与える影響」が大きくなったし、昔ほどの献金は集まらないから、お金の力で派閥が作れない。など、原因はいろいろあるが、現在の自民党は異例なほどまとまっている様子。お笑いコンビも不仲は禁物だ。仲が悪い芸人はやはりパフォーマンスが落ちるし、コンビとしての仕事が減る。ちなみに、パックンマックンは仲いいよ。単純にコンビとしての仕事が少ないだけ。

 こうやって見ると、芸人が舞台や番組で、そして政治家が選挙で、同じ技を使っているのがわかるね。芸人はウケればいい。政治家は受かればいい。

 いや、それは違う。政治家は選挙に勝つということが商売かもしれないけど、国民を優先して政策を打ち出すのが仕事。ここまで述べてきた技は、その仕事とは関係ない。むしろ「政策や政治家の資質を審査する」という、選挙の芯の作業を邪魔するものだ。話題を選ぶことで、大事な課題から国民の目をそらせたり、タイミングを活かして国民にとって不本意となる政策を通しては忘れさせたり、党内の統率で議論や政策の幅を狭めたりするのは、正しい審査を阻止するような行動だ。

 番組が盛り上がればいい、という話ではない。国民の生活、国家の安全、国際社会の安定がかかっているもので、総理大臣の仕事はそこらへんの笑い芸人の仕事より大事! ちょっとだけ大事! お笑い芸人と同じ技を政治家に黙って使わせてはならない。

【参考記事】投票率が低い若者の意見は、日本の政治に反映されない

 選挙中だけでなく、普段から政治活動中にそんな技を使っていることに気付いたら、国民とメディアが突っ込まなきゃいけない。いつ? どうやって? ○○についてはどうなの? 一年前の法案についてはどう? などと、政治家の思惑に沿わず、どんどん掘り下げて議論を深めないといけない。

 僕らの仕事は突っ込みだ! 結局それも芸人っぽい行動だけどね。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

AUKUS、韓国とも連携協議 米英豪の安保枠組み

ワールド

トランプ氏、不法移民送還に向けた収容所建設を否定せ

ビジネス

国内送金減税、円安対策で与党内に支持の声 骨太に記

ビジネス

三井物産、25年3月期の純利益15.4%減 自社株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 6

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 7

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 8

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story