コラム

【大江千里コラム】ハッピーホリデーにエリック3兄弟がやって来る

2019年12月24日(火)17時00分

自宅に飾られたクリスマスツリー COURTESY SENRI OE

<ニューヨーク在住のジャズピアニスト・大江千里氏によるエッセイコラム。第2回となる今回は、楽しくてちょっと忙しいニューヨーカーのクリスマスをお届けします>

11月末の感謝祭が終わると、人の歩くスピードががぜん速くなる。気後れしてふと立ち止まると頭上には夏前と変わらぬ空の青さ。時は矢のごとく、いつの間にか「ハッピーホリデー」を交わし合う季節になった。

この時期のニューヨーカーはギフトを買うのに忙しい。歩く速度を一向に緩めず、どんな隙間さえも擦り抜けて先を急ぐ。ロックフェラーセンター前にはスケートリンクが現れ、メールボックスにはグリーティングカードが次々届く。バーのカウンターでは、初めて会った者同士が「今年の冬は短いんだってね」と根拠のないおしゃべりに花を咲かせる。

西海岸でコンサートを終え10日ぶりにブルックリンに戻ると、去年ツリーを買った公園にテントが建ち始めているのが目に留まった。今年もクリスマスがやって来る。「組み立て方、分かんないんだけど配達の人やってくれるかな」「安心して! 責任持って組み立てるわ」

昨年の今頃、そんな言葉に安心して購入し、いざ届けられると「俺じゃできない」といかにもバイトらしき配達夫はつれない返事。仕方なくうちの大家に連絡すると、わが家のハンディーマン(なんでも屋)、エリック3兄弟がやって来た。

モミの木の根っこをネジで留め、みるみるうちにクリスマスツリーが出来上がる。作業のほとんどを担当するのは末っ子のエリックだ。兄貴たちはその間、何をやっているかって? 大音量でサルサを聞きながら楽しそうにスペイン語でおしゃべり。

なぜ3人も必要なのかが分からないが、決まってこのメンツでやって来る。「助かった。ありがとう」と僕の言葉に背中を押されて帰っていく3兄弟の足取りが少しだけ重い。あ、チップだ。この時期は特に大事。

「ちょっと待って!」。大声で引き止めてそれぞれに20ドルずつ渡すと、胸に手を当て感謝の念を表して丁寧にお札をポケットにしまう3人。

働いたのは末っ子だけだけど、そこはハッピーホリデーなのだ。それに兄弟のその姿を年末に見ると、心のツリーにイルミネーションが灯る。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳会談、緊密な関係称賛 プーチン氏に訪中招請

ビジネス

米TI、半導体設計会社シリコン・ラボラトリーズ買収

ワールド

ガザで子ども含む21人死亡、イスラエル軍は銃撃受け

ビジネス

テスラの中国製EV販売、1月は前年比+9.3% 3
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 6
    地球の近くで「第2の地球」が発見されたかも! その…
  • 7
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 8
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 9
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 10
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 8
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 9
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story