コラム

産業革新投資機構の取締役に失望した

2018年12月11日(火)15時15分

世耕弘成経済産業相との対立が決定的になり、12月10日、JICの民間出身の役員9人がすべて辞任した Toru Hanai-REUTERS

<金融も経済も政治利用しか考えず、とりわけファンドの運用では失敗だらけの政府をなぜ信じてしまったのか>

失望というよりも驚いた、という方が正確か。

昨日の産業革新投資機構(JIC)の田中正明社長の記者会見をすべてじっくりと見た。素晴らしいバンカーだ。

言っていることはすべて正しい。

そうそうたる取締役達の辞任のコメントも読んだ。

すべてもっともである。

しかし、である。

だからこそ、でもある。

なぜ、1つだけ、しかも致命的な点において、田中氏も取締役の人々も、全員同じ誤りを犯しているのか。

なぜ、彼らは、突然、日本政府が日本にとって重要な政策を実行できると思ったのか。

このような有権者の反感を買う可能性の高い政策を、これまで一度も実行していない政府が、このファンドに限って行う気概があると思ったのか。

あまりに愚かである。

しかも、官民ファンドというもっとも下手でほぼすべて失敗してきた(運が悪かったのではなく、最初から失敗することがほぼ確定していた)政策の分野で、突然、奇跡が起こると思ったのか。

GPIFの二の舞ではないか

社外取締役だった星岳雄氏は、今度は日本政府も変わったのかと思ったが、1カ月でその誤りに気づいた、とわざわざ述べている。

なぜ、変わった、と思えたのか。この金融、財政政策、国会での議論を見て、どこでそれを感じることができるのか。日々悪くなっているとしか思えないときに、奇跡が起こるほど、急変して良くなった、と思えるのはミステリーだ。

またある取締役は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を見ていて、政府も変わったのではないかと期待したとある。どうしてそう思えるのか。GPIFと政府の関係は、まさに政府が投資というものの難しさを理解しようとせず、政治的に利用することしか考えていないことの典型例ではないか。

私が大いに失望したのは、いまだに経済界の重要人物たちが、政治や日本政府の現状をまったく理解しないまま、政策にかかわる提言を超えて政策に直接関わることをしようとする過ちを再び犯したことだ。この過ちの本質は、ビジネスにおいても同様のはずで、マーケット(政策というマーケット)やオーナー(政治家および有権者)を理解しないまま起業して新規参入する、ということで、これではうちの学生たちのナイーブな起業プランと何も変わらない。

すべての企業人、学者は、政治を理解しようとせずに、政治に期待する、あるいは勝手に失望する、という悪癖を直す必要がある。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン無力化すれば原油価格は大幅に下落、トランプ氏

ビジネス

ベトナム、4月以降減便も イラン戦争で航空燃料不足

ワールド

トランプ氏訪中巡り米と協議 ルビオ長官の入国容認示

ビジネス

インド、2月の貿易赤字縮小 中東緊迫で供給懸念も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングアップは「2セット」でいいのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    ぜんぜん身体を隠せてない! 米セレブ、「細いロープ…
  • 10
    50代から急増!? 「老け込む人」に共通する体の異変【…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story