コラム

消費税増税による消費低迷が長引く理由

2018年04月03日(火)14時50分

これまで2回の消費税増税は、日本経済に大きなダメージを与えていた shih-wei-iStock

<これから再び大きな国民的論議の的になっていくであろう消費税増税。あえてこれまでの消費税増税の影響を検証する>

日本ではこれまで、1989年4月、1997年4月、2014年4月と、3回の消費税増税が実行された。そして、2019年10月には、4回目のそれが予定されている。それを本当に予定通り実行すべきか、あるいは再度延期すべきかは、これから再び大きな国民的論議の的になっていくであろう。

これまでの消費税増税を振り返ると、1989年のそれは、まさにバブルの最中に行われたということもあり、景気への悪影響がほとんど見られなかった。それに対して、1997年と2014年のそれは、きわめて顕著な負のショックを経済にもたらした。1997年の増税は、戦後最大の経済危機をもたらし、その後の長期デフレーションをもたらした。直近の2014年のそれは、1997年の時のような深刻な景気後退にはつながらなかったが、それでもその影響は大きかった。

とりわけ深刻だったのは、2014年4月以降、消費の水準それ自体が大きく下振れしたまま、時間とともに回復する徴候をほとんど見せなかったことである。その落ち込みは、未だに完全に払拭されてはいない。これは、単なる「駆け込み需要の反動減」ではとうてい説明不可能なものである。

幸いなことに、こうした消費低迷にもかかわらず、世界経済の回復に支えられて、日本経済の回復はその後も続いた。失業率は順調に低下し続け、一時は低迷していたインフレ率も再び上昇し始めた。賃金上昇率も、政府が目標とする3%には届いていないとはいえ、徐々に改善しつつある。とはいえ、政府が目標とする2%のインフレ率と3%の賃金上昇率が、次回の消費税増税が予定されている2019年10月までに達成されるかといえば、楽観的みてもぎりぎりというところであろう。

そのことは、日本経済にとってきわめて重大な意味を持っている。というのは、物価や名目賃金が十分に上昇せず、実質賃金が十分に改善しないうちに消費税増税が行われてしまうと、再び高い確度で「回復困難な消費の落ち込み」がもたらされることになるからである。

消費税増税は一般に、実質賃金の突発的な低下をもたらす。とはいえ、その影響は通常、実質賃金の趨勢的な上昇によって時間の経過とともに小さくなっていく。ところが、1990年代後半以降の日本経済のように、賃金上昇が物価上昇を上回るという正常な経済成長過程が実現されていない場合、消費税増税による実質賃金の低下は、回復されずにそのまま永続することになる。消費税増税による消費低迷が長引くのはそのためである。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 5
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【銘柄】「Switch 2」好調の任天堂にまさかの暗雲...…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story