コラム

『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず出版すべき本である

2025年04月19日(土)07時59分

視野狭窄のSNS

付言すると、本や雑誌というものは政府広報ではなく、極めて雑多な表現が許される媒体である。新聞やテレビ以上に、玉石混交のメディアと言ってもいい。明らかな危険思想でもない限り、出版を差し止める理由にはならない。いや、危険思想であっても差し止めをすべきではないのかもしれない。

本や雑誌は新聞テレビと比べて公共性が高くない上に、読者に強制的に見せるものでもない。ゆえに「嫌なら読むな」という理屈がある程度は成り立つ。

SNSを開けば、発達障害の人に対する攻撃的な言葉があふれている。現実世界でも、同様の言葉を耳にすることがある。そういう言葉に傷ついてきた当事者たちが、やり場のない怒りのはけ口として、感情の矛先をこの本に向けているようにも見える。

SNSに盛んに書き込みをしている人々というのは、既存メディアに対する反感が強い。だが、反感の裏返しとして、メディアに対して過剰なほどの無謬性や権威性、絶対性を夢見ているのではないか。

平たく言えば「既存メディアは絶対に間違ったことを書いてはいけない」という思い込みがある。

間違いは良いことではないが、人間が作るものである以上、多かれ少なかれ間違いは起こりうる。ネット空間はどんな差別表現もOKで、既存メディアは些細な逸脱すら許されないのだとしたら、そんなおかしな話はないだろう。

現在批判の声をあげている人々は、SNS特有の視野狭窄に陥っているようにも見える。擬人化された動物イラストと「困った人」という文言だけをスマホの小さな画面で見ていると、確かにとんでもない本のように見えるかもしれない。

だが、目次を見ればだいぶ印象は変わるだろうし、もっと言えば、この本は世の中に無数にあるうちの一冊に過ぎない。別に素晴らしい本だとは思わないが、世の中に一冊ぐらい、こういう本があっても構わないと私は思う。

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月7号(3月31日発売)は「日本企業に迫る サステナビリティ新基準」特集。国際基準の情報開示や多様な認証制度――本当の「持続可能性」が問われる時代へ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。現在は大分県別府市在住。主な著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『一九八四+四〇 ウイグル潜行』(小学館)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米最高裁、出生地主義見直し巡り1日に口頭弁論 トラ

ワールド

韓国とインドネシア、鉱物・ハイテク・金融分野での協

ワールド

ロイター調査:インド中銀、8日は金利据え置きか 中

ビジネス

エリオット、商船三井の経営計画「前向きな一歩」 株
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story