コラム

週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった

2025年01月30日(木)16時18分

「たかが」と「されど」の間

とはいえ、ここ数年は文春のイメージが異常なほど高止まりしており、今回の騒動は良い冷や水になったようにも思う。「もっと裏取りをしてから記事を出せ」と訳知り顔で批判する声も多いが、十分な裏取りをした信憑性の高い記事だけ読みたいという人は、週刊誌など読まないほうが良い。そういう方々には日本経済新聞や朝日新聞、読売新聞といった一般紙の定期購読を強くお勧めする。

ネットニュース全盛となった今、読み手のメディアリテラシーは恐ろしく低下している。リテラシーなんて言葉がなかった紙時代の読者のほうが、リテラシーは自然と保たれていたのではないか。

紙のスポーツ新聞で、あの巨大なド派手フォントで「ネッシー発見」と印字されたものを見ても、真に受ける人はほとんどいない。だが、同じ文言がネットニュースやSNS上で流れてくると、もう少し信憑性のあるような文字列となって液晶画面に出現する。「石破首相がASEAN首脳会議に出席」と「ネス湖でネッシー発見」が、まったく同じ体裁で流れてくるのだ。

これでは混乱するなというほうが無理がある。「俺は混乱なんかしてないぞ」と思っている人は、自分が混乱していることにすら気付いていないのだろう。

週刊誌も同じである。あのザラザラとした安っぽい再生紙にいささか下品で大袈裟なタイトルが特大フォントで踊っているからこそ、読者は(これ鵜呑みにしたらあかんわ)と分かる。

最近、文春は世の中からちょっと持ち上げられ過ぎて権威化しかけていた。文春砲は確かにすごい。でも、どこまで行っても文春は「たかが週刊誌」なのである。新聞の使命が「事実を伝える」ことにあるとしたら、週刊誌の使命は「話を伝える」ことにあると私は思っている。それは客観的事実というより主観的事実であり、ニュースであると同時に読み物であり、物語でもある。

それでもたまさか、新聞やテレビからは生まれないようなスクープや斬新な記事が飛び出すから不思議だ。それを雑誌ジャーナリズムと呼ぶのだろう。新聞と週刊誌は重なる部分も確かにあるが、根底に流れる思想が異なっている。両者を同じ態度で読んではいけない。

文春砲すごい! と手を叩いている人には「たかが週刊誌」、あんなの全部デタラメでしょと疑っている人には「されど週刊誌」という言葉を捧げたい。

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プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。現在は大分県別府市在住。主な著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『一九八四+四〇 ウイグル潜行』(小学館)など。

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