コラム

点字ブロックのアンパンマン、被災者侮辱、カラス生食......炎上を繰り返すツイッターの終焉は意外に近いかもしれない

2023年03月14日(火)21時42分

「正しく無視する」ことの重要性

さらに悲しむべきことは、こうしてツイッターをゲーム的に使い、過激な言葉で意見表明を行なっている人々の多くが、どう見ても「人生が詰んでいる」感じであることだ。

仕事も家庭もまったくうまくいっておらず、愚痴をこぼせる友人もいない。当然、お金もない。いつも人生に不満があり、孤独で、社会に対するうっすらとした憎悪がある。うっぷん晴らしに店員さんに当たり散らしてカスタマーハラスメントを繰り返している、不幸なおじさん(おばさん)――。

そんな人々がなけなしの優越感と自己肯定感を無料で得られる「脳汁分泌装置」が、ツイッターなのである。「デジタルコカイン」と呼ばれるだけのことはある。

ツイッター上では二言目には「厳罰化」が叫ばれ、「一度痛い目に合わせないと」「甘い対応ではダメ」などの言葉が続く。彼らは、画面の向こうで誰かが不幸になることを望んでいる。不遇でメンタルが落ち込んでいる時、人はそういう思考に陥ってしまう。

親指を動かすだけで現実社会の誰かが謝罪に追い込まれたり、大企業が右往左往したりする様を見るのは、さぞや痛快なのだろう。こうして彼らは現実社会との繋がりや、生の実感を得ることができるのだ。

そうした声を、果たしてどこまで真面目に聞くべきなのだろう。言葉の激しさやツイート数は考慮せず、炎上で指摘された問題を本質的に考え判断することが重要なのではないか。

たとえばアンパンマンミュージアムの件であれば、「誠意を見せろ」「問答無用でアウト」「視覚障害者のことを何も考えていない」といった激しい言葉やツイート数はいったん無視し、「実際に危険性はあるのか」「視覚障害のある来場者は年間どのぐらいいて、どう思っているか」「メディアからの質問はどう対応すべきか」といった観点から判断されるべきだろう。

ツイートをしている人々は、現場を見ていない。頭だけで導き出した答えは、正しい場合もあれば、間違っている場合もある。容易ではないが、時にはネット炎上を「正しく無視する」ことも必要ではないか。彼らは往々にして怒りすぎなのである。

ここまで「彼ら」と書いてきたが、私だって気分が晴れない時や退屈でたまらない時は、似たような行動原理でツイッターを開いている。「彼ら」とは、あるいは私自身のことでもある。

メタがどんなSNSを開発しているのかはまったく分からないが、創業者のマーク・ザッカーバーグ氏はかつて、こんなことを語っていた。

「2種類のアイデンティティーを持つことは、不誠実さの見本だ」

こんな青臭い理想が現代のネット空間で通用するとは思わないけれど、魑魅魍魎が跋扈している現在のツイッターは、どう考えても異常だ。ツイッターの終焉は、意外ともうすぐやってくるのかもしれない。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

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