最新記事
シリーズ日本再発見

日本の観光政策は間違いだらけ、「クールジャパン」の名称は自画自賛で逆効果だ

2023年01月12日(木)17時25分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

しかし、このような国内向けのメッセージと、実際の国際的なメッセージを混同してはいけません。「外国人が日本を愛している」「外国人がカッコイイと思っているのはこれだ」という番組を、そのまま翻訳して海外に向けて発信するのは、非効率です。

国内向けのマイ・ジャパンのメッセージと海外向けのユア・ジャパンのメッセージを分けて考える必要があります。

まずはこの自分たちのマイ・ジャパンの観点を理解し、手放すことが必要です。日本の多くの取り組みはセルフ・イメージにこだわりが強く、マイ・ジャパンの観点を手放すことがなかなかできません。

cooljapanbook20230112-2.jpg

ボアズ氏が「地球上で最もユニークなショッピングセンター」と呼ぶ中野ブロードウェイ mizoula-iStock.

中野区から見るインバウンド

企業はしばしば、国際社会からどのように見られたいかというビジョンを持っています。そして、ターゲットとなる市場がこのビジョンを当然受け入れてくれるものと仮定して、 マーケティングを設定しようとします。

残念ながら、この方法がうまくいくことはほとんどありません。実際に、私が観光大使をしている中野区を例に挙げて見てみましょう。

中野区は素晴らしい街です。有名なレゲエ歌手のボブ・マーリーが、1979年に日本公演を行った中野サンプラザがあり、哲学堂公園のような美しい公園や、新井薬師のような素晴らしい寺院もあります。

また、徳川綱吉の時代には、生類憐みの令の制定に伴って約30万坪の敷地に10万頭もの犬が飼育されていた犬の保護施設「お囲い御用屋敷」が設置されるなど、非常に興味深い歴史もあります。

一方で、海外の観光客が、東京を観光しようと考えたときに、中野区をすぐには思い浮かべないことも認識しています。私は観光大使としてこの状況を変えようと、各地で中野の魅力を紹介してきました。

たしかに、中野区には素晴らしい公園やお寺、歴史がありますが、それは東京の他の区にも存在します。それらを観光客にアピールしようとしてもあまり効果は期待できません。

例えば、外国で美味しいワインを飲みたいアメリカ人がいたといます。もし予算に余裕があれば、そのアメリカ人は日本を訪れることを選ぶでしょうか?

日本のワインは、たしかに美味しいですが、ワインにしか興味がないインバウンドは、より知名度のあるフランスに行くことを選ぶでしょう。日本にすでにいるインバウンドのワイン愛好家なら山梨県に行くかもしれませんが、まだ日本に来ていない外国人観光者ならば、ワインを理由に来日する例はとても少ないでしょう。

そのわけは、日本のワインが悪いということではなく、彼らの需要を日本よりもフランスのほうが満たしてくれるからです。

もし私の知り合いが、東京を観光するのに十分な時間がなく、一度に公園とお寺を見たいとしたら、私でも浜離宮や浅草寺を紹介します。いくら私が中野観光大使だからと言っても中野を提案することは良心的とは言えません。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド4月自動車販売、大手4社まだら模様 景気減速

ビジネス

三菱商事、今期26%減益見込む 市場予想下回る

ワールド

米、中国・香港からの小口輸入品免税撤廃 混乱懸念も

ワールド

アングル:米とウクライナの資源協定、収益化は10年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中