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10年目の「ふるさと納税」に逆風 返礼品に頼らない「2.0」の時代へ

2018年02月23日(金)16時36分
長嶺超輝(ライター)

弘前市(青森県)では、弘前城の石垣を改修する工事に必要な資金を集めるのに「石垣普請応援コース」と題したふるさと納税として募集をかけたところ、全国から約7000万円が集まった。

立川市(東京都)は、ホビー会社の壽屋(ことぶきや)が独自にリリースしたロボットプラモデル『フレームアームズ・ガール』のアニメ化をするため、ふるさと納税を活用した。返礼品としてそのアニメの先行上映視聴権を提供している。

自治体がプロジェクト単位で寄付を募る「ふるさと納税2.0」の取り組みによって、人々は寄付を終えた後もその自治体に思いを寄せることが多くなったはずだ。また、地域密着型ビジネスに関わる起業家たちによるプロジェクトの資金集めを、ふるさと納税のしくみで自治体がサポートする例も増えてきている。

「ふるさと納税2.0」は実は原点回帰だった

とはいえ、こうした取り組みのアイデアは、決して最近出てきたものではない。

2004年に長野県の泰阜村(やすおかむら)で制定された「ふるさと思いやり基金条例」は、ふるさと納税に関する制度づくりのヒントになったといわれる、先駆けのような制度である。

例えば「学校や美術館の修復」「在学福祉サービスの維持や向上」「自然エネルギーの活用や普及」など、プロジェクトの使途目的を明確にした寄付を全国から募り、それを「ふるさと思いやり基金」として集約するしくみだ。泰阜村は初年度に900万円以上を集めた。

寄付者に対しては、年に1度、プロジェクトの事業報告書を送付し、これに添える形でトマトなどの特産品も贈っていた。ただし、寄付に対するリターンの主眼は、トマトよりも事業報告書に置かれていたのである。

つまり、「ふるさと納税2.0」は、斬新な取り組みというより、むしろ原点回帰だといえよう。

従来も、ふるさと納税の寄付者は、寄付金の使い途を選べないわけではなかった。既に紹介した都城市でも、「環境・森林の保全」「高齢者支援」「災害支援、口蹄疫対策」など、ふるさと納税による寄付金の使い途を7種類用意し、寄付者自身で選べるようにしていた。

しかし、使い途を指定しない「市長おまかせコース」を選んだ人が約半数にのぼっていたという(2位が「子ども支援」の27%)。参加した大半の人々の興味が、焼酎と牛肉と節税に寄せられていたことは想像に難くないが、今後はふるさと納税に対する世間の意識も少しずつ変化していくものと予想される。

ただし、こうしたプロジェクト応援型のふるさと納税が普及していくと、「納税」という言葉がますます実態からズレて、違和感を覚えてきそうなのも確かである。

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