最新記事
シリーズ日本再発見

10年目の「ふるさと納税」に逆風 返礼品に頼らない「2.0」の時代へ

2018年02月23日(金)16時36分
長嶺超輝(ライター)

「3割通達」で落ち込んだが、クラウドファンディング型へ進化

そこで、総務省は2017年4月、ふるさと納税がネットショッピングでなく「自治体への寄付である」という基本へ立ち返るため、「返礼品の仕入れ値を、寄付額の3割以内に抑えよ」との新たな通達を出した。

この「3割通達」を境に、返礼品競争の勢いは急速にしぼんでいく。例えば都城市では、返礼品とされた牛肉の市場価格が寄付額の6割を超えていたため、分量を減らすなどして対応した。

そんな中、市町村で取り組む「プロジェクト」を応援する目的で寄付するふるさと納税が関心を集めている。全国から十分なお金が集まったらプロジェクトが実施され、プロジェクトの成果物などが返礼品として寄付者へ贈られる。ちょうど、ふるさと納税の枠組みの中でクラウドファンディングを実施するようなものだ。

これにより、損得を精密に勘定して返礼品を選択する層とは異なるタイプの人々が、ふるさと納税に参加するようになった。「モノ」だけでなく「コト」による返礼の充足感も得られる選択肢が加わったことで、地方への寄付の裾野がさらに広がり始めている。

プロジェクト応援型のふるさと納税を、本稿では「ふるさと納税2.0」と呼びたい。その代表的な成功例は、東京都墨田区の「すみだ北斎美術館」開館プロジェクトである。

この葛飾北斎をテーマにした専門美術館が、ふるさと納税を活用して建てられたことはあまり知られていないが、江戸を代表する天才浮世絵師、北斎のファンは国内外に大勢いる。おかげで美術館の開館までに5億円以上の寄付が集まったという。

もちろん、外国人の支援者は節税目的でふるさと納税に加わったわけではない。多くの人にとって魅力的に感じられるプロジェクトを企画して打ち出すことができれば、損得を抜きにして「この楽しそうな営みの中に自分も加わりたい」という気持ちのこもった寄付が集まってくる。

他にも全国で同様の例があり、都市部の自治体でも積極的な取り組みが行われているのが「ふるさと納税2.0」の特徴である。

寄付を終えた後、無関心にならないしくみ

大阪府では、1970年の大阪万博で岡本太郎が制作した「太陽の塔」の修復費用を調達するために、ふるさと納税を活用した例がある。返礼品は、2018年3月に予定されている塔の内部公開の先行予約券だ。

また、広島県の庄原市・三原市・江田島市では、廃校舎を住民の交流スペースに改造するプロジェクトで、返礼として下駄箱に寄付者の氏名を記すふるさと納税を実施。527人から総計で3847万円を集めた。

かつて、ふるさと納税の影響で10億円の税収減に見舞われていた東京都文京区では、病児保育などを行うNPO法人「フローレンス」を実行部隊とし、子供のいる生活困窮家庭に米などの食料品を届ける「子ども宅食」プロジェクトを実施するためのふるさと納税を募り、2000万円以上を集めた。

弥生時代に「邪馬台国」が存在した可能性がある候補地のひとつ、桜井市(奈良県)の纏向遺跡で、草原の中に大型建造物の柱の跡が見つかったことから、文化財として保全するための整備費をふるさと納税でまかなう取り組みも行われている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中