ニュース速報
ビジネス

アングル:中東の高級車市場に戦火の影響、金箔仕上げなど高利益の特注モデル凍結

2026年04月01日(水)12時47分

アラブ首長国連邦ドバイのジュメイラ・ビーチ・レジデンス地区に展示された高級レンタカー。2020年3月11日撮影。REUTERS/Satish Kumar

Nick Carey Rachel More Giulio Piovaccari

[ロン‌ドン/ベルリン/ミラノ 30日 ロイター] - アラビア建築に着想を得たレーザー刻印入りのボ‌ンネットや、それに調和する木目仕上げの内装――これらはイラン戦争前の2月、ロールスロイスがドバイの顧​客から依頼を受けて製作した一点物のモデル「ファントム・アラベスク」に施された、贅(ぜい)を尽くした仕様の一部だ。

大半の高級車メーカーにとって、中東市場は販売台数こそ全体の10%未満に過⁠ぎないものの、利益の面では数字を大きく上回る影響​力を持つ。だが世界的に需要が減少しているいま、脅威にさらされている。

標準的なロールスロイス・ファントムの価格は約43万ポンド(9074万円程度)からだが、湾岸諸国の富裕層向けにオーダーメイドの特別仕様を追加すれば、価格は大幅に上がる。一部のモデルでは、特注の追加仕様だけで価格が2倍、3倍に跳ね上がることもある。

独BMW傘下のロールスロイス・モーターカーズは、ドバイで2カ所目となるショールームを開設したわずか1週間後にこの「アラベスク」を発表したが、その直後に米・イスラエルによるイランへの攻撃、それに続くイラ⁠ンによる湾岸諸国への攻撃が地域全体に衝撃を与えた。

独フォルクスワーゲン(VW)傘下、英高級車ベントレーのフランク・シュテファン・バリザー最高経営責任者(CEO)は3月初め、中東について「世界で最高の市場だ」と語っていた。

だが2月28日に戦争が勃発すると、湾岸諸国の多くの高級車ディ⁠ーラーは一時​的に閉鎖された。イタリアのフェラーリやステランティス傘下のマセラティは3月、納車を一時停止したが、両社ともショールームはその後再開したと述べている。

ロールスロイスは質問に回答するメールの中で、中東の状況を「注視している」と説明。「状況は流動的であり、長期的な影響について推測するのは時期尚早だ」との見方を示した。

一方、高級車ブランドを全て取り扱うドバイのディーラー「ファーストモータース」は開戦後の数日間は店を閉じていたが、その後営業を再開した。

クリス・ブル取締役によれば、同社のショールームはフェラーリやブガッティの品揃えで最もよく知られており、約25万ドルから最高1400万ドルまで幅広い価格帯の車を販売しているという。

ブル氏によると営業再開以来、売り上げは約30%減少したも⁠のの、140万ドルを超える価格帯の販売は安定的に推移。アラブ首長国連邦(UAE)以外での販売も堅調を維持している。

「正面玄関から入っ‌てくる客の数は明らかに減っているが、安定した業績を維持できている」とブル氏は言う。中には700万ドルの車を国外へ空輸するため、最高3万4000ドル以上を払う人も⁠いると付け加えた。

<極め⁠て高い利益率>

ベントレーと同様に、ランボルギーニ、イタリアのフェラーリ、タタ・モーターズ傘下のジャガー・ランドローバー(JLR)、独ポルシェなどのブランドは、紛争の迅速な終結を願いながら神経を尖らせている。

VWのオリバー・ブルーメCEOは3月初めの記者説明会で、中東での販売について「非常に利益率が高い」と述べ、イラン戦争については「確実に影響が出るだろう」と言い添えた。

ほとんどの高級車メーカーは地域別の利益率を公表しておらず、ベントレーやロールスロイスを含む一部のメーカーは世界販売台数も発表しなくなっている。

ただフェラーリは、‌昨年の中東での販売台数は全体の4.6%を占め、中国での販売台数を上回り、24年の3.5%から上昇したと発表した。広報担当者によれば、この地域での販売は今​のところ安定‌しているという。

中東ならではの特徴として、限定モデル⁠の存在が挙げられる。希少な木目調の装飾パネルや真珠母貝の象嵌(​ぞうがん)、金箔仕上げといった意匠を凝らした1台には、極めて高い付加価値が認められ、自動車メーカーは多額のプレミアム価格を上乗せして販売できる。

例えば24年、JLRは「サダフ」エディションのレンジローバー・スポーツSVを20台販売した。価格は1台あたり約33万ポンドで、英国での最低価格の約3倍に当たる。

英アストンマーティンのアンディ・パーマー元CEOは、在任中は中東の富裕なコレクターに対して利益率の高い特別仕様車を提案するのが最初の仕事だったと語った。

「(買うかどうか)聞くまでもなかった」とパーマー氏はロイターに語った。

業界幹部らによると現在、この地域における特注ビジネスはほぼ完全に停止して‌いるという。

ベントレーのバリザーCEOは「中東の人々は今、新しいベントレーを探すよりも、ほかに考えるべきことがある」と述べた。

<「壊滅的だ」> 

米国での販売が関税を巡る不確実性の影響を受け、中国や欧州での需要が急落する中、高級車メーカーには成長の源泉がほとんど残されておらず、​減産を検討せざるを得ない状況にまで追い込まれている。

イラン戦争の前から、ベントレ⁠ーの昨年の売上高は5%減少していた。だが同社のアクセル・デビッツ最高財務責任者(CFO)は3月、記者団に対し、現時点では減産の必要性は感じていないと述べた。

「ただ現在の危機が数週間続くようなら、状況を再検討する必要があるだろう」とも話した。

ランボルギーニのステファン・ビンケルマンCEOは3月、新型コロナウイルスのパンデミック以来、多くの課題に​直面してきたと振り返る。さらに「米国に代わるような、販売台数を押し上げてくれる新たな市場など、もうどこにも存在しない」と付け加えた。

22年のロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアでの販売は停止し、中国の高級車市場は「崩壊」した。ランボルギーニにとって最重要市場である米国は関税の打撃を受け、そして今、中東市場も失速していると同CEOは言う。

元アストンマーティンCEOのパーマー氏にとって、今回の状況はこれまで経験したことのないものだ。

「特にプレミアム・高級車メーカーにとって、全くの破滅だ」

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

エリオット、商船三井の経営計画「前向きな一歩」 株

ワールド

原油先物1%超上昇、イラン戦争終結期待も警戒感続く

ワールド

ベネズエラ、移行期間と自由・公正な選挙必要=米国務

ビジネス

アングル:短観が示すインフレリスク 物価見通し上振
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中