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警察幹部がなぜ鬼平を愛読?──から始まった東京での「江戸」探し

2017年12月27日(水)15時52分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

過去から未来へ

江戸は「100万都市」だったと言われるが、もちろん正確な数字が残っているわけではない。8代将軍・吉宗の命で正式な人口調査が行われるようになったものの、対象は町人だけ。それでも残っている記録によると、町人はおよそ50万人。それに武家人口などを合わせて100万人というわけだ。

では、その100万人はどこに住んでいたのか。つまり、どこからどこまでが「江戸」だったのか? 幕府に仕えていた者(平蔵もそう)は、「江戸城を中心に4里(約16キロ)四方」の外に出る際には外出届を出す必要があったが、実は境界に関しては、幕府の機関によって解釈がまちまちだった。

1818年に初めて統一された境界によれば、現在の目黒区は「江戸」ではなかった。実際、千代ヶ崎(現・目黒区三田2付近)という高台から見る目黒~世田ヶ谷には田園風景が広がり、丹沢の山並みから富士山までを一望できたそうだ。

そんな江戸郊外にあって、富くじの抽選会も行われていた目黒不動(瀧泉寺)は人気スポット。長谷川平蔵も参詣に訪れて、門前の「桐屋」という店で黒飴を買っている。もちろん小説の中の話だが、店は実在していた。江戸の町の様子を記した『江戸名所図会』(1834・36年刊行)にも取り上げられるほど評判だったようだ。

このようにして著者は、『鬼平犯科帳』と古地図、さらにその他の歴史資料とを照らし合わせながら、21世紀の東京を歩いていく。活気あふれる江戸の町に生きた長谷川平蔵や町人たちの姿を、現代の東京の街に映し出すために「大切なのは古地図と、豊かな想像力」。

だが本書を携えれば、あとは想像力さえあればいい。小説と史実、江戸と東京を行きつ戻りつしながら、来たる2020年へと思いを馳せてみよう。


『古地図片手に記者が行く
「鬼平犯科帳」 から見える東京21世紀』
 小松健一 著
 CCCメディアハウス


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