最新記事
シリーズ日本再発見

東京五輪が中小企業に及ぼすマイナス影響

2017年09月15日(金)16時05分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

新国立競技場の建設現場(2017年5月) Issei Kato-REUTERS

<東京五輪の経済効果についてはさまざまな数値が出ているが、本当にプラスの効果を得られるのか。中小企業にとっては、バラ色の五輪とならないかもしれない?>

東京オリンピック・パラリンピックの開催まで、いよいよ3年に迫った。開催地・東京ではハード・ソフト両面での準備が進められている。何といっても世界的なスポーツ大会であり、経済効果が大きい。

その経済効果だが、実際どのくらいになるのだろうか。

東京都は今年3月、2013年から開催10年後の2030年までで、経済効果は約32兆円との試算を発表した。しかし開催決定前の2012年には、約3兆円(期間は2013~20年)と試算している。一方、みずほ総合研究所は30兆円規模というレポートを出しており、他にも約7兆円、約20兆円、約150兆円など、さまざまな団体・専門家によるさまざまな試算がこれまでに出されてきた。

どの数値が実態に近いかは経済効果をどの範囲で捉えるかなどにもよるが、そもそも期待したようなプラスの効果を本当に得られるのだろうか。

五輪に関してよく指摘されるのが、開催にあたって競技施設などを整備したはいいが、閉幕後、利用の少ない施設の維持費が大きな負担になるというものだ。だが、社会全体で抱えることになるこの「負の遺産」以外にも、想定されるマイナス影響はある。

例えば、中小企業に対する影響だ。企業数では日本全体の99%、従業員数でも日本全体の7割を占める中小企業にとって東京五輪は、大した経済効果をもたらさない、あるいはマイナスの効果をもたらすイベントになる可能性だってあるのではないか。

その理由を3つピックアップしてみると――。

1)東京ビッグサイト封鎖

「展示会は、中小企業の売上に不可欠!」

これは今年5月、日本展示会協会の総会で壇上に掲げられたメッセージ。各国から五輪取材に集まるメディア関係者のためのプレスセンターが東京ビッグサイトに設置される予定で、それが中小企業の経営を危うくするというのだ。

東京ビッグサイトといえば、多種多様な業界の展示会から50万人を集客するコミックマーケット(コミケ)まで、年間300近いイベントが開かれる日本最大の見本市会場だ。それがプレスセンター設置のため、2019年4月から展示会に使えるスペースが段階的に縮小され、2020年11月までの20カ月間、制約を受ける。

当初は2020年4~10月は完全に使えなくなる計画だった。日本展示会協会が署名活動を展開するなど反対の声が相次ぎ、施設側と五輪組織委員会が軽減策を講じた結果、現時点では五輪期間中も使用できる仮説展示場を作るということになっている。ただし、面積は東京ビッグサイトの4分の1に過ぎない。

展示会が開催できないだけで中小企業が危機にさらされるとは大げさにも思えるが、営業機会が失われることで約1兆2000億円の売り上げが消失すると日本展示会協会は試算しており、倒産する企業も出てくると懸念している。

同協会の石積忠夫会長は5月の総会で、「展示会は中小企業や零細企業の命。この20カ月の間に企業が疲弊してしまったら、日本にとって元も子もない」と語ったという。

東京モーターショーがかつての影響力を失い、上海にその地位を奪われてしまったことに顕著だが、今や展示会は国際競争にさらされている。

日本展示会協会や出展企業側からすれば、海外からも注目(とバイヤーたち)を集め商談につなげるためには、広い会場と多くの出展企業が必要だ。仮設展示場や近隣のパシフィコ横浜では狭すぎ、幕張メッセにも五輪組織委員会から使用要請が出ていて、東京ビッグサイトの代わりになる場所はないのだという。

2)東京一極集中の加速

五輪を開催するのは東京だが、東京ビッグサイト問題が影響するのは、地方も含む全国の中小企業。地方があおりを受けるという意味では、東京一極集中の問題も看過できない。

人口や資本、経済活動など、あらゆるものが東京圏に集中するのが東京一極集中だ。これにより地方衰退に拍車がかかると警鐘を鳴らす声は多い。そして地方経済においては、東京圏よりも中小企業の存在が大きい。

極端な例だが、総務省「平成26年経済センサス‐基礎調査」によれば、最も大企業数が少ない県のひとつである島根県(26社)では、県内全従業員のうち大企業の従業員が占める比率はわずか7.7%。一方、東京都には4942社の大企業があり、都内全従業員の57.9%が大企業の従業員だ。地方経済を語ることは、地方の中小企業を語ることに等しい。

【参考記事】大阪と東京に生まれた地域政党の必然と限界

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国航空会社2社、エアバス機購入計画発表 約82億

ワールド

コロンビア、26年最低賃金を約23%引き上げ イン

ワールド

アルゼンチン大統領、来年4月か5月に英国訪問

ワールド

中国軍、台湾周辺で実弾射撃訓練開始 演習2日目
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中