コラム

「韓国による半島統一」を望む中国

2010年12月01日(水)10時13分

 ウィキリークスによる米外交電文の大量流出が騒ぎになっているが、今のところその内容はアメリカ人外交官というフィルターを通した交渉相手国の発言や同盟国からの伝聞情報にとどまっている。そこに「ファクト」がないのはある意味当然で、一番のニュースは「アハマディネジャドが革命防衛隊司令官にビンタされていた」だと思えるほどだ。

 とはいえ、細かく読み込んで行くと興味深い情報にも突き当たる。今年2月22日、キャサリン・スティーブンス駐韓米大使が本国に宛てて発した電文もその1つ。6カ国協議の韓国代表の千英宇(チョン・ヨンウ)外交通商部第2次官(当時)から得た情報をまとめたその内容は、中国の対北朝鮮政策や中国代表である武大偉(ウー・ターウェイ)の評価にまで踏み込んでいる。

 まず千は、中国と北朝鮮の関係について次のように評する。


 すでに経済的に崩壊している北朝鮮は金正日の死後「2年から3年の間に」政治的にも崩壊する状態にあるが、中国はその経済的影響力を使って北朝鮮政府の政策を変える意思が「まったくなく」、北朝鮮側もそれを「知っている」。中国は北朝鮮の非核化を望んでいるが、現状に決して不満なわけではなく、中国が北朝鮮を「崩壊の淵」に追い込まない限り、北朝鮮は実質的な非核化に踏み出さないだろう。 

 そしてスティーブンスに向かって千は赤裸々な武大偉評を語った(注:文脈から判断して文中の伏せ字XXXXXは同一人物をさすとは限らない)。


 武大偉が6カ国協議の中国代表に留任したのは「最悪」だ。XXXXXは北朝鮮が「激しく外交部副部長を辞めたばかりの武の留任を求めてロビー活動した」らしいと言っている。[名前削除]は武が中国のXXXXXで、尊大な元紅衛兵のマルクス主義者であり、「北朝鮮や非核化について何も知らず、英語をしゃべらないので極めてコミュニケーションしづらい」人物だと不満を漏らしている。武は強硬派のナショナリストであり、誰に対しても大声で中国は世界の大国であり、「もう途上国ではなく」、経済発展がそのことを証明している、とまくしたてる。まったく「新世代の」朝鮮半島専門家だ......。 

 中国の北朝鮮政策は世界がうすうす感づいていたことではある(元駐日大使の武が紅衛兵だったことは初耳だが)。ただ生の外交官の言葉として聞くとやはり興味深い。ちなみに電文の要約部分でスティーブンスは、おそらくは千の情報なのだろうが、暗に武のことを「北朝鮮が『最も無能な中国外交官』と評している人物」と記していた。だとすれば、北朝鮮は「無能な人物」をあえて議長に据えることで、6カ国協議の無力化をはかっていたことになる。

 そして千は中朝関係について、さらにもう一歩踏み込んだ情報をスティーブンスに示していた。


 武と対照的に洗練された中国の外交官がXXXXXだ。XXXXXは朝鮮半島が韓国の主導によって再統一されるべきだと考えている。XXXXXは北朝鮮がもはや中国にとって緩衝地帯の価値がまったくないという「新たな現実に向き合う」準備ができている。2006年の核実験以来、中国の指導層の間で摩擦を引き起こしている議論は――北朝鮮が崩壊したときに中国が取るべき行動のシナリオだ。 


 北朝鮮が崩壊したあと、中国が38度線の北に米軍が駐留することを「歓迎しない」ことは明らか。中国は韓国による朝鮮半島の再統一と、統一国家が中国に敵対しない「無害な同盟国」としてアメリカ側に就くことを容認するだろう。 

「韓国の北朝鮮吸収」を中国が容認――ただ、これは「洗練された外交官XXXXX」の見解であることに注意すべきだ。6カ国協議に関わった「洗練された中国外交官」といえば、まず連想されるのは駐日大使も務めた王毅だが、仮に王毅だったとしても、代表しているのはおそらく外交部リベラル派の見解。人民解放軍も含んだ中国政府全体のコンセンサスと考えるべきではない。かつて半島で血を流した軍の発言力は今も決して小さくない。

 この辺が今回流出したウィキリークス文書の限界なのだろう。あくまで表に出ている範囲だが。

ーー編集部・長岡義博

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米戦略石油備蓄の第1弾、来週末までに供給 8600

ビジネス

日立とGEベルノバ、東南アジアで小型モジュール炉導

ワールド

米商務省、AI半導体輸出の新規則案を撤回 公表から

ワールド

北朝鮮が約10発の弾道ミサイル発射、東海岸沖の海に
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切りは常軌を逸している」その怒りの理由
  • 3
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド太平洋防衛
  • 4
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 7
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 8
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 9
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 10
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 7
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story