コラム

帰って来たノーランズ

2010年11月16日(火)11時12分

 1980年代、ロックやパンクを聞いている日本の中高生男子(一部小学生男子)の敵はABBAであり、B.C.R.(ベイ・シティ・ローラーズ)であり、のちにデュラン・デュランであり、カルチャー・クラブだった。嫌われたのは、主に彼らの音楽(と見た目)が体制的だと、反体制気取りのロック・パンク派に受け止められたから。

 ところがそれから十数年経った90年代半ば、ABBAが突然脚光を浴びるようになる。きっかけはU2のボノだった。「反体制」の象徴だったはずの彼とU2があろうことか『POP』というアルバムを発売し、ABBA好きを公言。コンサートで「ダンシング・クイーン」を歌った。その後今も続くABBAブームのきっかけをつくったのは、間違いなくボノである。

 70年代後半から80年代にかけて、ABBAやB.C.R.とともにロック・パンク派から憎悪されていたのが、アイルランド生まれの4人組姉妹グループのノーランズだ。そのノーランズがまた日本で注目を集めている。ABBAを再発見したのがボノなら、日本でノーランズを再発見したのは例のソフトバンクの「お父さん」。最近、ソフトバンク携帯のCMにノーランズの『ダンシング・シスター』が使われているのだ。

 ボノはABBAについて「少女趣味だという理由でABBAの音楽は完全に無視されたが、結果的に彼らは時代を越えて生き残った。ABBAには歌うことに対する純粋な喜びがある」と、かつてドキュメンタリー番組で語った。この言葉はそのままノーランズに当てはまる。次のYou Tube映像を見てほしい。

 1980年11月、大阪の伝説の名番組『ヤングおー!おー!』に出演した映像である。今You Tubeに残っている彼女たちのどの映像より、生き生きとしたノーランズが歌い、踊っている。

 ノーランズには「ダンシング・シスター」だけでなく「Gotta Pull Myself Together(恋のハッピー・デート)」や「セクシー・ミュージック」といったヒット曲もある。テレビ番組などで今も結構使われているから、「どこかで聞いたことがある」と感じる人も多いだろう。

 当時は「激ダサ」の烙印を押されても、時代を超えて生き残るものがある。ノーランズが生き残ったのは、彼女たちに歌い踊る喜びが純粋にあふれていたから。その喜びは、単に彼女たちを懐かしがるオジさんオバさん世代だけでなく、若い人たちにも伝わる。だからこそノーランズはソフトバンクの「お父さん」に再発見されたのだ。

――編集部・長岡義博

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税交渉で来週早々に訪米、きょうは協議してない=赤

ワールド

アングル:アルゼンチン最高裁の地下にナチス資料、よ

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人口学者...経済への影響は「制裁よりも深刻」
  • 4
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウ…
  • 5
    約558億円で「過去の自分」を取り戻す...テイラー・…
  • 6
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 7
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 8
    父の急死後、「日本最年少」の上場企業社長に...サン…
  • 9
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 10
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story