コラム

2トップの国の知られざるあの人

2010年06月17日(木)00時00分

 忘れられがちだけど、ドイツは常に2トップでいっている。......サッカーの話ではない。国のリーダーのことだ。

 6月30日の選挙で、ドイツのリーダーが決まる。アンゲラ・メルケル首相が退陣するわけではない。新たに決まるのは、もう一人のリーダー、大統領選の方だ。

 ホルスト・ケーラー大統領が突然の辞任を表明したのは5月末のこと。ドイツの経済的利益を守るためには他国に軍事介入をすることも必要だ、という発言が国内で大バッシングを受けたためだ。新たに行われる大統領選で、最有力候補はキリスト教民主同盟(CDU)などの連立与党が擁立したクリスチャン・ウルフ(CDU副首相でニーダーザクセン州の首相)らしい。

 ドイツ大統領、と聞いて即座にピン、と来る人はそう多くないのでは。メルケル首相ならすっかりおなじみだが、そもそもドイツに大統領がいることさえ忘れがち。今回の大統領選も(ドイツ以外では)ほとんど話題になっていない。

 それもそのはず、ドイツの大統領は選挙といっても連邦議会議員らによる連邦会議の投票によって決定する。アメリカやフランスのように国民投票で選ばれる大統領ではない。さらに、ドイツ大統領の役割はごく象徴的なものにとどまり、法律に署名したり外交の場に出席したり、という程度で、実権は首相が握っている。

 そもそも、首相と大統領が両方いる国はけっこう多いが、どちらが何をやっているのかというと、実はよく分かっていなかったかも。国によって両者の権限や関係はさまざまだが、2トップ型の国々を2つに分類すると......。

タイプ1 首相優位型
 ドイツ、イタリア、イスラエルなど。大統領は議会の会議によって選出され、政治的権限をほとんど持たない形式的な存在なのに対し、首相は議会で指名され、行政を統括して権力を握る。ちなみに首相の影で存在感は薄いが、イタリア大統領はジョルジョ・ナポリターノ、イスラエル大統領はシモン・ペレス。

タイプ2 大統領優位型
 フランス、韓国、ロシア、ウクライナなど。大統領は国民の直接投票で選ばれ、強い権限を持つのに対し、首相(韓国の場合は国務総理)は国会の同意を得て大統領が任命する。首相は大統領を補佐して行政機関を統括するのが役割で、権限は限定的(ただし、ロシアの場合は話が別かも)。大統領ばかりが目立つが、フランス首相はフランソワ・フィヨン、韓国国務総理は鄭雲燦(チョン・ウンチャン)、ウクライナ首相はアザーロフ・ミコラ。

 2トップの「影の薄い方」が、突然思わぬ注目を集めることもある。少なくとも「もう1人リーダーがいる」くらいは頭に入れておいた方がいいかも。

――編集部・高木由美子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story