コラム

ゴルバチョフを憎むロシア国民...彼らが気付いていない、国に残された「遺産」

2022年09月13日(火)18時12分
ゴルバチョフ遺影

ゴルバチョフの記念碑(ベルリン) Lisi Niesner-Reuters

<ペレストロイカとグラスノスチがソ連崩壊を招き、国のGDPを大幅に縮小させたと考える国民は多いが、ゴルバチョフの功績は今も国に生き続ける>

1980年代初めに私がCIAで働き始めた頃、共産主義大国のソ連は恐ろしい巨大な帝国に見えていた。その後、ソ連の最高指導者が相次いで在任中に死去した。82年にレオニード・ブレジネフが死去し、ユーリー・アンドロポフが最高指導者に就任。ところが、84年にアンドロポフが死去し、その後を継いだコンスタンチン・チェルネンコも85年に死去した。

その後、ソ連のトップに就いたのが、今年8月30日に91歳で死去したミハイル・ゴルバチョフだった。当時54歳のゴルバチョフは、歴代の最高指導者より若く、エネルギッシュなリーダーだった。

ゴルバチョフが最高指導者に就任した当時のソ連は、冷笑主義が蔓延し、社会と経済が機能不全に陥っていた。ロシア中央部の炭鉱地帯から首都モスクワに向けて石炭を満載した貨物列車が走り、その一方でモスクワから炭鉱地帯に向けて石炭を満載した貨物列車が走り、しかもいずれのルートでも途中で石炭の半分が盗まれてしまう──という有り様だった。

87年初めに、CIAのソ連専門家が私と同僚たちにソ連の現状について説明したことがあった。「5年後には、東ヨーロッパからロシアの兵士はいなくなっているだろう」と、その人物は語った。話を聞いていた私たちは言葉を失ったものだ。

この専門家は、少しだけ予想を外した。ロシアの兵士が東ヨーロッパを去ったのは、5年後ではなく7年後の94年のことだった。これに先立つ91年に、ソ連は既に崩壊していた。

開放的で近代的な社会を目指した

このような劇的な変化は、国の活力を取り戻し、より開放的で近代的な社会を築くことを目指したゴルバチョフの政治の産物だった。ゴルバチョフは、世界を大きく様変わりさせたのである。

ゴルバチョフの政治は、2つの政策が柱を成していた。「ペレストロイカ(改革)」と「グラスノスチ(情報公開)」である。しかし、これらの政策を推し進める過程でソ連は崩壊し、ただでさえ機能していなかったロシア経済はいっそう苦境に陥った。ロシア経済の状況が悪化するのに伴い、ロシアの人々の怒りの矛先がゴルバチョフに向けられるようになっていった。

ゴルバチョフは、ソ連の外交政策も大きく転換させた。アメリカと軍縮合意を結び、アフガニスタンからのソ連軍撤退も決めた。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「停戦は発効」、違反でイラン以上にイスラ

ワールド

ガザの食料「兵器化」、戦争犯罪に該当 国連が主張

ワールド

ドイツ、25年度予算案を閣議了承 投資と利払い急増

ビジネス

独IFO業況指数、6月は予想以上に上昇 景気底入れ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story