コラム

電気自動車「過剰生産」で対立するG7と中国──その影にジンバブエのリチウム鉱山開発ブーム、現地でいま何が?

2024年06月20日(木)20時55分
中国・上海のBYD販売店

中国・上海のBYD販売店(2022年9月4日) Robert Way-Shutterstock

<中国企業が半ば独占するジンバブエのリチウム開発だが、現地では児童労働や環境への配慮不足、超過労働などが頻発しているとの報告も>


・G7各国では中国による電気自動車などの過剰生産が市場取引を歪めることへの懸念が強まっている。

・中国による電気自動車生産で無視できないのは、戦略物資となった鉱物リチウムを半ば独占的に調達できる原産地を確保していることである。

・なかでも南部アフリカのジンバブエは、リチウム産地としてポテンシャルが大きいとみられながらも、G7各国が開発の手をほとんど伸ばせない国である。

クリーンエネルギー分野の覇権抗争

イタリア南部プーリアで6月13~15日に開催されたG7首脳会合では、中国による電気自動車などの過剰生産が重要議題の一つとなった。

電気自動車とプラグインハイブリッド車の世界最大手である中国のBYDは、昨年世界全体で300万台以上を販売した。これは第2位の米Teslaの2倍近い規模で、その約40%はヨーロッパ向けに輸出された。

G7の懸念に対して中国政府は「過剰生産はない」「誇張されている」と反論する。

しかし、確かなのはG7と中国がハイテク覇権競争に直面していることだ。

先端技術分野で競争力を高めるため、中国は国内企業に膨大な補助金を出している。

そこにはAIやドローンの他、クリーンエネルギー技術も含まれる。独キール世界経済研究所の試算によると、BYDの場合、中国政府からの補助金は2023年だけで21億ユーロ(3,528億円)にのぼった。

その電気自動車生産に関連して無視できないのが、中国によるリチウムの確保だ。

リチウムは電気自動車の心臓ともいえるリチウムイオンバッテリーの生産に欠かせない原料の一つである。中国自身が年間1万4000トン以上のリチウムを生産していて、これは世界全体の約13%で世界第3位の生産量に当たる(第1位はオーストラリアの52%、第2位はチリの25%)。

しかし、中国企業はそれ以外でも半ば独占的にリチウムを調達できる産地を確保している。その一つが南部アフリカのジンバブエだ。

ジンバブエ

リチウム争奪戦の舞台ジンバブエ

ジンバブエではニッケル、金、ダイアモンドなどの鉱物資源が豊富に産出するが、リチウム生産量は2021年段階で1200トン程度と、世界全体の1%に過ぎなかった。

しかし、そのポテンシャルは大きく、世界全体のリチウムの20%程度が埋蔵されている可能性も指摘されている。

その開発で先行するのが中国企業だ。

中鉱資源集団(Sinomine)が2022年2月にリチウム鉱山の経営権を取得したのを皮切りに、中国企業は今年3月までにこの国のリチウム開発に約28億ドルを投資したとみられる。

中鉱資源集団の広報室によると、その所有するリチウム鉱山の一つMasvingoだけで埋蔵量は約6500万トン(現在の全世界の年間生産量は10万トン程度)にのぼる。

そのデータには疑問も残るが、少なくともジンバブエでリチウム生産が活発化していることは確かで、2022年に約7060万ドルだった輸出額は2023年には6億7400万ドルにまで急増した。

そのほとんどは中国向けの輸出だったとみられている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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