コラム

バイデン政権が目指すアフリカの「失地回復」──アキレス腱は「人権」

2021年11月18日(木)16時10分

さらにいうなら、「民主化を支援することでテロを抑制しやすくなる」という考え方も単純すぎる。世界に冠たる民主主義国家を自認するアメリカで白人テロが横行しているように、独裁国家より民主主義国家の方がテロを抑え込めるという証拠はない。アメリカの後ろ盾で民主的な政府が発足したはずのアフガニスタンで、政府が汚職にまみれ、結果的に多くの国民の不興を買い、タリバンの活動をむしろ活発化させたことも記憶に新しい。

「人権と民主主義を尊重する国が連携して中国包囲網を形成する」というコンセプトは、先進国の世論にとっては魅惑的かもしれない。先進国の大半の人々は、国連加盟国のほとんどを占める途上国のことなど、ほとんど関心を持っていないからだ。また、中国包囲網を形成するなら、外交戦略としても中国との差別化は必要だろう。

しかし、あまりに価値観に傾いた外交は、テロ封じのパフォーマンスに疑問があるばかりか、そのご都合主義がかえって多くの途上国を糾合することを難しくする。実態を踏まえない外交戦略は、むしろ中国を利することにもなりかねないのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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