コラム

バイデン政権が目指すアフリカの「失地回復」──アキレス腱は「人権」

2021年11月18日(木)16時10分

アフリカでは近年クーデタやテロが相次いで発生している。とりわけイスラーム過激派の勢力が広がる西アフリカでは、中国やロシアから軍事援助を増やす国も目立つ。

この状況でデバーモント氏は、アフリカのなかでも人権や民主主義といった価値観が定着し、軍隊による人権侵害などを規制している国に優先的・集中的に援助を行なうことで、中ロの影響力に対抗できるだけでなく、政治に不満をもつテロ予備軍を抑え込めると主張する。

中国包囲網を意識して民主的な国を優先的に支援するというコンセプトは、クリーンエネルギーを中心とするインフラ建設などその他の領域でも想定されている。

アキレス腱になる人権

人権や民主主義を外交の柱にすることは、もともとこうした問題に熱心な民主党のリベラル派だけでなく、中国批判の核を占める共和党の保守派にも訴えやすいものだ。つまり、アメリカの国内世論向けにはいいかもしれない。

とはいえ、そこには危うさもつきまとう。アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所のダリボル・ロハック研究員はボイス・オブ・アメリカの取材に「民主主義を重視すること自体はいいことだし、価値のあるものだろうが、中国に対抗するための幅広い関係を構築するなら、最高とはいえないかもしれない...民主的といえない国との協力も考えるべきだろう」と述べている。

実際、アフリカに関していえば、欧米諸国の基準に照らして人権や民主主義に熱心といえない国の方が圧倒的に多いのが現実だ。

例えば、今回ブリンケンがケニアやナイジェリアを訪問したことで、これらが一応「人権や民主主義で合格点にある国」とアメリカが認めたことになる。しかし、ケニアの選挙では各党の支持者同士の暴力的な衝突が慢性化していて、現職ケニヤッタ大統領自身も2007年大統領選挙での野党支持者の襲撃・虐殺を指揮した嫌疑で国際刑事裁判所(ICC)に召喚された経歴を持つ。

また、ナイジェリア警察の対凶悪犯特殊部隊(SARS)は「テロ対策」や「暴動対策」の名の下に数多くの民間人を超法規的に殺傷しており、2017年から'#EndSARS' を掲げる抗議デモが頻繁に発生している。

それでも今回ケニアやナイジェリアが訪問先に選ばれたのは、人権や民主主義に熱心だからというより、両国とも地域の大国で、しかも伝統的に欧米と悪い関係でなく、中国とやや距離があるという政治的な理由が大きい。

ご都合主義は中国を利する

だとすると、人権や民主主義を必要以上に力説すればするほど、「関係のいい相手は人権や民主主義に熱心な国と認知する」アメリカのご都合主義も浮き彫りになる。外交に二枚舌は付き物とはいえ、それがあまりに露骨なら信頼やリーダーシップにかかわる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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