コラム

ノーベル平和賞に決まったエチオピア首相──これを喜ばないエチオピア人とは

2019年10月15日(火)15時30分

アフリカ連合での会議に出席したエチオピアのアビー首相(2019年1月17日) Tiksa Negeri-REUTERS


・ノーベル平和賞に決まったエチオピアのアビー首相は、対立する民族間の融和に尽力してきた

・その業績は高く評価されるべきだが、一方で自由と民主主義に基づく融和は、皮肉にも新たな民族対立の呼び水となってきた

・このノーベル平和賞はゴールではなく、次のステップにされるべきものである

ノーベル平和賞の受賞者がエチオピアのアビー・アハメド首相に決まったことは、明るい話題の少ないアフリカで一つの光明ではある。しかし、エチオピア国民のなかにはこれを喜ばない者もいる。

アビー首相の功績とは

ノーベル賞選考委員会は10月11日、今年のノーベル平和賞をエチオピアのアビー首相に授与すると発表した(エチオピアでは東アジアと同じく、名、姓の順でなく、姓、名の順で表記するため、報道でたまにある「アハメド首相」という表記は「晋三首相」というのと同じで誤り)。

日本ではほぼ無名に近いが、アビー首相は就任して以来、周辺地域の緊張緩和に実績をあげてきた。

・隣国エリトリアとの領土問題について和平合意を成立
・争いのタネだったナイル河の水利用について(下流の)エジプト政府と協議を成立
・隣国スーダンでの軍事政権と反政府デモ隊の衝突での調停

それだけでなく、アビー首相は国内の混乱の収束にも取り組んできた

エチオピアでは最大の人口を抱えるオロモ人の間に分離独立を求める動きがあり、2015年頃から連邦政府とデモ隊が衝突を繰り返すなか、数百人が死亡したといわれる。2018年2月、連邦政府はオロミア州に非常事態を宣言し、数多くのオロモ人を「テロリスト」として逮捕・投獄した他、多くが殺害されたとみられる。

こうした混乱のなか、2018年4月、オロモ人として初めて首相に就任したアビー氏は「それまでの政府の行き過ぎ」を謝罪したうえで、収監されていた政治犯を今年2月までに1万人以上釈放。さらに、非常事態の解除、インターネット遮断の解除、オロモ人政治組織の合法化など、民族間の融和に努めてきた。

エチオピアではいまだにジャーナリストが「テロリスト」として拘留されるなど人権状況に問題があるとはいえ、こうしたアビー首相の取り組みは高く評価されるべきだろう。

また、個人的な感想を言わせていただくなら、ノーベル賞選考委員会の発表に対するアビー氏の「恐縮している」という控えめなコメントは、各地に緊張を振りまきながら露骨に「ノーベル平和賞が欲しい」アピールをするトランプ氏より、はるかに好感がもてる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相が米国へ出発、「我が国の立場踏まえしっかり

ビジネス

米2月PPI、前月比+0.7%に加速 サービスが押

ビジネス

EUが新興企業育成支援案、最短48時間・100ユー

ワールド

米ビザ保証金、12カ国追加 対象50カ国に拡大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 6
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 7
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story