コラム

エチオピア非常事態宣言は民族共存の挫折、日本企業にボディブロー

2018年02月20日(火)18時30分
エチオピア非常事態宣言は民族共存の挫折、日本企業にボディブロー

辞職したエチオピアのハイレメリアム・デサレン首相 Tiksa Negeri-REUTERS

国連の統計によると、2017年段階でアフリカ大陸には約12億人の人口がいますが、2030年には17億人、2050年には25億人に増加すると見込まれています。

そのため、市場の将来性を見込んで日本企業も数多く進出しており、例えば南アフリカではトヨタなど280社が操業しています。しかし、近年ではアフリカ各地で政情が不安定化しており、南アフリカでは2月15日に国民や与党からの圧力を受けてズマ大統領が辞任。政治的な混乱が広がることは、その業績や将来への戦略に影響を及ぼすとみられます。

ただし、これは南アフリカに限りません。アフリカ北東部のエチオピアでは2月15日、ハイレメリアム・デサレン首相が辞任し、16日にエチオピア政府は非常事態を宣言。この政変は、世界でも稀な民族共存のための取り組みが挫折したことが直接的なきっかけになりました

エチオピアの場合、進出している日系企業は13社にとどまり、直接的な関係では南アフリカのそれに及びません。とはいえ、その不安定化が地域一帯に悪影響を及ぼしやすいものである点では、エチオピアも同様といえます。

mutsuji2018022001.jpg

民族共存のテストケース

まず、今回の政変の背景となった、エチオピアにおける民族共存の仕組みについて紹介します。

エチオピアの人口は1億240万人で、これは大陸第2の規模。オロモ、アムハラ、ティグライなど約40の民族によって構成されます。一つの国に多くの民族が混在することはアフリカでは珍しくなく、これは各地で分離独立運動が頻発する大きな背景となってきました。

エチオピアの場合、1995年に発布された現行憲法で「エスニック連邦主義」と呼ばれる体制が導入されました。これは各州にエチオピアから「分離独立する権利」を認めるもの。つまり、他の国では抑圧の対象となる「分離独立」を、地域ごとの権利として保障しているのです

一見奇妙なこの仕組みは、「離婚の権利」と置き換えれば理解しやすいかもしれません。つまり、それぞれが「対等の立場で、一緒にやっていくことに合意する」から一つの運命共同体を作るのであり、もし「一緒にやっていけない」と判断されるなら、関係を解消する権利をお互いに保障する、ということです。言い換えると、「エスニック連邦主義」は、少なくとも考え方としては、それぞれの民族の独立性を最大限に尊重しつつ、その自由意志に基づいて「一つの国家」を作ろうとするものといえます。

「エスニック連邦主義」への道

アフリカだけでなく、世界的にもほとんどみられないこの仕組みは、エチオピアの歴史に基づいて生み出されたものでした。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

ニュース速報

ビジネス

中国、11月輸出は予想外の減少 輸入は4月以来の増

ワールド

北朝鮮国連大使が米国を批判、非核化は「交渉から外れ

ワールド

北朝鮮、東倉里で「非常に重要な」実験成功 エンジン

ワールド

「指導者の裏切り許さない」、環境活動家グレタさんが

MAGAZINE

特集:仮想通貨ウォーズ

2019-12・10号(12/ 3発売)

ビットコインに続く新たな仮想通貨が続々と誕生── 「ドル一辺倒」に代わる次の金融システムの姿とは

人気ランキング

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 3

    ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を虐殺した」と言い始めた中国

  • 4

    次期首相候補、石破支持が安倍首相を抜いて躍進 日…

  • 5

    サムスン電子で初の労組結成──韓国経済全体に影響す…

  • 6

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 7

    『鬼滅の刃』のイスラム教「音声使用」が完全アウト…

  • 8

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」…

  • 9

    ペットに共食いさせても懲りない飼い主──凄惨な退去…

  • 10

    イランで逮捕された「ゾンビ女」の素顔

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」組の絶望

  • 3

    日米から孤立する文在寅に中国が突き付ける「脅迫状」

  • 4

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 5

    ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を…

  • 6

    韓国保守派のホープを直撃した娘の不祥事

  • 7

    5G通信が気象衛星に干渉し、天気予報の精度を40年前…

  • 8

    『鬼滅の刃』のイスラム教「音声使用」が完全アウト…

  • 9

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 10

    サムスン電子で初の労組結成──韓国経済全体に影響す…

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判の大合唱

  • 3

    「日本の空軍力に追いつけない」アメリカとの亀裂で韓国から悲鳴が

  • 4

    元「KARA」のク・ハラ死去でリベンジポルノ疑惑の元…

  • 5

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たG…

  • 6

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 7

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」…

  • 8

    GSOMIA継続しても日韓早くも軋轢 韓国「日本謝罪」発…

  • 9

    日米から孤立する文在寅に中国が突き付ける「脅迫状」

  • 10

    何が狙いか、土壇場でGSOMIAを延長した韓国の皮算用

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!