コラム

世界の流れに逆行する日本──なぜいま水道民営化か

2018年11月19日(月)15時48分

フランスのヴェオリアとスエズ、イギリスのテムズ・ウォーターの三社は「ウォーター・バロン」と呼ばれ、水道事業で大きなシェアをもつが、これ以外にもアメリカのベクテルなど、欧米には「水メジャー」とでも呼べる巨大企業が軒を連ねている。

このうち、例えばベクテルは1999年、南米ボリビアが世界銀行の勧告に沿って水道を民営化した後、コチャバンバ地方の水道事業を事実上買収した。その結果、1カ月の最低賃金が100ドルに満たない町の水道料金が1カ月20ドルになった【ヴァンダナ・シヴァ『ウォーター・ウォーズ』緑風出版】。

住民の激しい抗議デモを受け、ベクテルは撤退に追い込まれたが、その後ボリビア政府に損害賠償請求を行っている。2006年、ボリビア大統領選挙では反米左派のモラレス氏が当選したが、こうした行き過ぎたグローバル化にさらされた経緯に鑑みれば、無理のない反応といえる。

こうした事例は、後を絶たない。

フィリピンの首都マニラでコンセッション方式によって進められた水道民営化は、水道普及や下痢発生の低下などで成果がみられたため、世界銀行はこれを「成功例」と位置づけている。

しかし、マニラの水道事業はマイニラッドとマニラ・ウォーターの2社にほぼ握られ、現地の消費者団体によると、民営化以来の20年間で、両社の水道料金はそれぞれ973パーセント、583パーセント上昇した。度重なる値上げに、現地ではやはり、しばしば抗議デモが発生している。

水メジャーの日本上陸

こうした水メジャーの一部は、国会で水道法改正案が成立する前の段階で、既に日本に上陸している。

静岡県浜松市では今年4月、他の自治体に先駆けてコンセッション方式が導入され、水メジャーの一角を占めるヴェオリアが参加する企業連合による下水処理施設2カ所の運営を開始。事業期間は20年間で、浜松市はこれによって86億5600万円のコスト削減を見込んでいる。

この事業は水道法改正案に関する厚生労働省の資料でも紹介されており、事実上一つのモデルケースと位置付けられている。コンセッション方式はこの他、大阪市、宮城県などでも検討されている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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