コラム

世界に広がる土地買収【前編】──中国企業による農地買収を活かすには

2018年03月08日(木)15時50分

オーストラリアのシドニーで行われた中国・春節の祭りと大きな戌の提灯(2018年2月16日)

<記事のポイント>




・中国による土地買収は世界に広がっているが、最近は特に農地買収が盛ん
・これに対して各国で規制が強化されている
・日本での農地買収に関しては、その体系的なデータすらなく、現状把握が必要
・ただし、中国企業の農地買収を警戒するだけでは生産的でない
・必要なことは、中国企業の力を用いながら日本の利益を増進する「活かす規制」

2月22日、フランスのマクロン大統領は中国企業を念頭に、外国企業による農地の売買を規制する方針を発表。フランスでは2016年にアンドル県の1700ヘクタールの農地を、2017年には中部の穀物地帯アリエ県で900ヘクタールの農地を、それぞれ中国企業が買収していました。同様の方針は各国でみられ、日本でも北海道などで外国人の農地取得を規制する動きがみられます。

日本では他国より外国人の土地所有が容易です。そのため、中国企業の進出を背景に、その規制強化を訴える意見が噴出することは、不思議ではありません。ただし、何の規制もなく外国企業が日本の土地を購入できる状況は改善するべきとしても、それは中国企業による農地買収をただ警戒することと同じではありません

中国の土地買収の状況

まず、中国による土地買収の大枠をみていきます。

中国の企業・個人による海外の土地の買収の目的は、会社や工場の設立から、個人の住居、転売目的の投資など多岐に渡ります。このうち(実際に居住するかどうかにかかわらず)宅地に関しては、海外不動産を扱う中国最大の斡旋サイト居外(Juwai)への問い合わせ件数順で、2017年段階では米国のものが最も多く、それにオーストラリア、タイ、カナダ、英国、ニュージーランド、ドイツ、日本、ベトナム、マレーシアが続きました。モルガンスタンレーの調査によると、2016年段階で売買が成立したロンドン中心部の商業地のうち、25パーセントは中国人が買収していました。

ただし、同じ調査によると、中国から海外の住宅地、商業地への投資は2016年の106億ドルをピークに、2017年には17億ドルにまで激減。この背景には、中国当局が資本の流出に制限を加え始めたことがあるとみられます。

中国政府は企業による海外での不動産投資に「禁止」、「抑制」、「推奨」の三つのカテゴリーを導入。このうち「禁止」にはカジノや軍事関連、「抑制」にはホテルや住宅開発、そして「推奨」には農業やインフラ整備が含まれます。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「気持ち悪い」「恥ずかしい...」ジェニファー・ロペ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story