コラム

習近平政権が反「内巻き政策」を続けても、中国のデフレは続く

2025年09月24日(水)08時35分

デフレを問題として理解していない習近平氏

また、経済成長率を高める手段はマクロ安定化政策(金融財政政策)である。物価安定を実現するためには、政策判断の独立性を持った中央銀行が大きな役割を果たすわけで、中央銀行が機能すればデフレという物価の問題は解決するというのが2013年以降の日本などの歴史の教訓である。

筆者は1月8日コラム「中国経済の失速・デフレ化が世界金融市場の『無視できないリスク』になる」において、習近平氏がデフレを問題として理解していないとのウォール・ストリート・ジャーナルの観測記事を紹介した。

中国人民銀行は政府の一機関と位置付けられており、習近平氏がデフレを問題視しないのであれば、その意向に沿わない金融政策が行われる可能性は低いと筆者は考えている。実際に、デフレが長引いている中で、中国の政策金利は3%と高いままで、かなり金融引き締め的な状況が続いている。このため、中国ではデフレが定着しつつある。

トランプ政権による関税引き上げが延期され続けるとしても、マクロ安定化政策が十分に機能しなければ、政府が反「内巻き政策」を掲げても、中国経済がデフレと停滞から抜け出すことは難しいだろう。このため、2025年初からのハンセン株の大幅高は持続しないと筆者は予想している。

さて、日本では石破茂首相の退陣を受けて、次の首相を決める自民党総裁選挙が始まった。小泉進次郎氏と高市早苗氏が軸となる選挙戦とみられるが、小泉首相、高市首相のいずれになるかは依然ほぼ五分五分だと筆者は考えている。

マクロ安定化政策が機能しないままの中国でデフレが放置され経済が停滞することは、日本の安全保障の面では朗報であると言える。ただ、中国市場に依存する日本企業が多いため、中国当局の不作為がもたらす同国の経済停滞は、日本経済の逆風になりかねない。

デフレから脱却し経済正常化の途上にある日本にとっては、経済成長を高めるマクロ安定化政策が依然必要だと筆者は考えている。

この点を深く理解し、かつ中国当局の反「内巻き政策」の実情を正しく捉えられる政治家が次期首相となれば、日本株のリターンが中国株に劣る2025年9月までの状況は大きく変わるだろう。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

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プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

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