コラム

本格始動した岸田政権への不安

2021年11月17日(水)16時10分

2022年以降の経済政策策定の議論が官僚組織主導で進むと......

経済回復を後押しする経済対策については、筆者の当初の想定をやや上回るが4−5兆円規模の家計の所得支援策などに限定される見込みである。具体的には、所得制限を課した上での子どもへの10万円支給、低所得世帯への支援金、マイナポイントを通じた所得支援である。一部報道では40兆円規模の対策が講じられると伝えられているが、未執行予算の付け替え、2022年度予算と一体化、財政投融資の金額を加算する、などで規模を膨らませて政治への配慮を見せる格好になるのだろう。

こうした、岸田政権の財政政策は、菅政権による対応とほぼ同じで、経済成長率を高めるマクロ的な効果は極めて限定的と言える。このため、日本経済は2021年10-12月期から回復に転じるが、経済政策が小規模にとどまれば、それが続くかどうかは将来の新型コロナの感染状況次第になると予想される。

2022年度の国債発行額はほとんど増えず、日本銀行による国債購入もほぼ変わらないので、イールドカーブコントロール政策のもとで金融財政政策が強化されるには至らないだろう。日銀による国債購入が増えるまで財政政策が膨らむには、一律の給付金再支給や減税政策などの大規模な追加対策が必要と考える。日銀は2%インフレ目標のために、イールドカーブコントロール政策を粘り強く継続するという、米国などの外部環境に依存する受動的な政策が続くとみられる。

そして、「新しい資本主義」「分配と成長の好循環」を掲げる岸田政権が、限定的な財政政策発動の次に、2022年以降どのような経済政策を打ち出すのかは、依然として明確ではない。新たな会議体が複数始動しているが、岸田政権の方針、ビジョンは、筆者にとって分からないことがほとんどである。一方、経済対策は政治的な妥協の末に、官僚組織による調整を通じて実現したと言える。

こうした経緯を踏まえると、2022年以降の経済政策策定の議論が官僚組織主導で進み、増税と既得権益を確保する政策が優先的に実現するシナリオが想定される。この延長線で、仮に2%インフレ実現と経済正常化による成長押し上げ政策に対する官邸のコミットが弱まれば安倍・菅政権からの政策転換となり、2022年以降に回復が期待される日本経済にとって大きなリスクになると筆者は警戒している。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン主要濃縮施設の遠心分離機、「深刻な損傷」の公

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story