コラム

緊縮策という病から解き放たれつつある米国経済

2021年06月03日(木)14時45分

3月25日のコラムでは、公的債務残高拡大が財政政策の制約にならず、そして経済成長を高めるために拡張的な財政政策を使えるという、著名な経済学者であるサマーズ教授などの考えについて紹介した。

民主党政権による大規模な財政政策については、「大きな政府」という表層的な評価をメディアなどでは見かける。実際には、所得分配を強化する民主党の政治的な意図が大きく影響している。それに加えて、バイデン政権においては、最先端を走る米国の経済学者の理論や考えに基づき、拡張的な財政政策を行う姿勢が強まっているのが実情だろう。

米国の経済政策の現場で起きている大きな変化は世界に影響をもたらす

米国において財政政策に対する考え方が、これまでとは大きく変わりつつあることは、今後の米国だけではなく世界の経済動向に大きな影響をもたらす可能性がある。緊縮的な経済政策を基本に据える政策思想から米国が一足早く開放される、歴史的な転換点を迎えつつあると前向きに筆者はこれを評価している。

ブランシャール教授などが主張するように公的債務拡大を利用して、経済成長率の趨勢的な低下に対して先進国が積極的に財政政策を発動する対応は、そのやり方や政治情勢によっては害悪が大きくなるリスクもある。ただ、バイデン政権が党内の極端な進歩派勢力から距離を置きつつ拡張的な財政政策を行うことは、デメリットよりもメリットの方が大きいと筆者は考えている。

そして、バイデン政権による、財政政策を通じた所得格差の是正は、米国経済全体にとって望ましい政策だろう。というのも、所得格差の是正によって、消費性向が高い低所得家計の所得を支えることは、経済成長率を底上げする一定の効果が期待できるからだ。そして、所得格差が引き起こす米国社会の問題を改善させる可能性が高いだろう。

最後に、米国の経済政策の現場で起きている大きな変化が、日本経済に及ぼす影響について簡単に述べよう。バイデン政権と同様に拡張的な財政政策を積極化させることは、脱デフレが依然として政策課題になっている日本経済にとっても歴史的な政策転換になりうるだろう。国際経済学者のマーク・ブライス教授が唱える「緊縮策という病」を政策転換によって日本は克服できるのか、投資家目線で筆者は期待を込めて強い関心を持っている。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英建設業PMI、6月は48.8に上昇 6カ月ぶり高

ビジネス

中国の海外ブランド携帯電話販売台数、5月は前年比9

ビジネス

焦点:英で「トラスショック」以来の財政不安、ポンド

ワールド

中国商務省、米国に貿易合意の維持求める 「苦労して
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    1000万人以上が医療保険を失う...トランプの「大きく…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story