コラム

コロナ対策で戦時に匹敵する財政政策を発動する米国、しかし日本は......

2021年02月25日(木)11時30分

バイデン政権が打ち出したメニューの多くが実現するとの期待が、金融市場では高まっている......REUTERS/Jonathan Ernst

<米国における、戦時対応に匹敵する大規模な財政政策発動によって、2021年以降米国経済の成長率は加速する可能性が高い。しかし、日本の財政政策は......>

米国株は2月に入り史上最高値を更新、更に米国の債券市場では長期金利(10年物国債利回り)が、年初の1%前後から2月22日には1.4%近くまで上昇した。このため、金利上昇が大型ハイテク銘柄の株価などを押し下げる場面が増えている。

バイデン政権のアメリカンレスキュープラン実現への期待が高まる

ただ、最近の米欧での長期金利上昇は、先行して上昇していた株式市場が想定していた世界経済の正常化を、債券市場が遅れて織り込み始めたため起きていると筆者はみている。株高と金利上昇は、ワクチンが普及すること、そしてバイデン大統領が打ち出したアメリカンレスキュープラン(米国救済法案)の後押しで、2021年の経済成長率が大きく上振れれば正当化できるだろう。

実際に、米国で長期金利は上昇しているが、これが株価全体を下げるまでには至っていない。金融株など出遅れていた銘柄への物色が広がり、主要株価指数は最高値圏で推移している。米国での金融財政政策への期待によって、コロナ後に低下していたインフレ期待が反転している。これが、長期金利を上昇させている側面が大きく、現状程度の長期金利上昇は米国経済の大きな足枷にならないと見込む。

株高、金利上昇の主たる要因である、アメリカンレスキュープランについては、その半分程度が少なくとも実現すると筆者は想定している。ただ、民主党優位の現在の議会情勢を踏まえると、バイデン政権が打ち出したメニューの多くが実現するとの期待が、金融市場では高まっている。

第二次世界大戦時に匹敵する財政政策の発動

こうした中で、イエレン財務長官が追加財政政策を実現する姿勢を強調する一方で、正統派経済学者の立場から財政政策の必要性を長年主張してきたローレンス・サマーズ教授などが、GDP対比約9%の追加財政支出がインフレ率を大きく高めるリスクに言及している。米国では、経済正常化をもたらす為に、どの程度の規模の追加財政政策が必要なのか、極めて建設的な議論が行われている。

米連邦政府の財政赤字は2021年1月時点でGDP対比16%と、2020年3月時点からGDP対比10%ポイント以上財政赤字が増えた。トランプ政権が年末に実現させた9000億ドルの経済対策法案に加えて、アメリカンレスキュープランのうちどの程度議会で可決されるかによるが、米国の財政赤字がGDP対比20%以上まで拡大するのは、ほぼ規定路線である。これは、第二次世界大戦時に匹敵する財政政策の発動である。

財政赤字を懸念する論者やメディア関係者が日本では多い。ただ、戦時に匹敵する非常時に徹底した財政政策を打ち出し、新型コロナ対応と経済正常化を目指すというのが米国で起きている現実である。先に述べたように、財政政策の規模に関しては行き過ぎの可能性が指摘され始めたが、未知の感染症という特殊な事情への対応として家計所得支援策が主たる歳出であれば、制御不能なインフレは生じないと筆者は考えている。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米百貨店コールズ、通期利益見通し引き上げ 株価は一

ワールド

ウクライナ首席補佐官、リヤド訪問 和平道筋でサウジ

ワールド

トランプ政権、学生や報道関係者のビザ有効期間を厳格

ワールド

イスラエル軍、ガザ南部に2支援拠点追加 制圧後の住
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:健康長寿の筋トレ入門
特集:健康長寿の筋トレ入門
2025年9月 2日号(8/26発売)

「何歳から始めても遅すぎることはない」――長寿時代の今こそ筋力の大切さを見直す時

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 2
    「どんな知能してるんだ」「自分の家かよ...」屋内に侵入してきたクマが見せた「目を疑う行動」にネット戦慄
  • 3
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪悪感も中毒も断ち切る「2つの習慣」
  • 4
    【クイズ】1位はアメリカ...稼働中の「原子力発電所…
  • 5
    「ガソリンスタンドに行列」...ウクライナの反撃が「…
  • 6
    「1日1万歩」より効く!? 海外SNSで話題、日本発・新…
  • 7
    イタリアの「オーバーツーリズム」が止まらない...草…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    「美しく、恐ろしい...」アメリカを襲った大型ハリケ…
  • 10
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 3
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット民が「塩素かぶれ」じゃないと見抜いたワケ
  • 4
    皮膚の内側に虫がいるの? 投稿された「奇妙な斑点」…
  • 5
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 6
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 9
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 10
    脳をハイジャックする「10の超加工食品」とは?...罪…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story