コラム

アメリカの銃をめぐるパラノイア的展開

2016年02月23日(火)11時00分

支援者の前で銃を持つジェブ・ブッシュ元フロリダ州元知事。2月21日、大統領選で共和党の指名争いから撤退した。Mary Schwalm-REUTERS

 このコラムでは毎回ツィートをキャプチャーして解説を加えていく。キュレーションをお楽しみいただきたい。

 初回は大統領選で共和党の指名争いから撤退したばかりの元フロリダ州元知事のジェブ・ブッシュ氏(63)によるツィートだ。なぜか自身の名前が彫られた拳銃の写真をアップし、一言、
「America.」
 とツィートした

morley2.jpg


 英語版のニューズウィーク記事に詳細があるので紹介しよう。
 Why Jeb Bush's gun tweet backfired (Newsweek)

 選挙活動をする最後の州となったサウスカロライナ州でブッシュ知事は小規模な銃工場で従業員たちと対話集会を開催した。その時に工場から自身の名前と肩書が掘られた45口径の拳銃をプレゼントされた。その贈り物を撮影し、
 「アメリカ。」
 とツィートしたのだった。ちなみに拳銃の安全装置は外れていることが確認できる。

 このツィートは炎上した。炎上した後でブッシュ元知事は、
 「地元の銃工場への支持を表明したに過ぎない」
 と弁明。だがこの写真はものすごい勢いでミーム化し、おびただしい量のパロディーやコラージュ写真を生み出す。翌朝、タブロイド紙のニューヨーク・デイリーは一面を、
 「まぬけな45口径=Dolt .45」
 という見出しで飾った。銃規制を進めようとする団体のスポークスマンは、
 「ひたすら哀れだ」
 とコメント。地元サウスカロライナの工場も、実は本社がベルギーにあることが発覚。つまり、フルボッコにされた。

nydn-jeb.jpg

「ニューヨーク・デイリー・ニューズ」2月17日の一面。


 アメリカでは現在、毎日88人が銃によって殺害されている。これはもちろん、すべての先進国の中でも異常な統計だ。ブッシュ元知事は何を考えていたのだろう?それを解き明かすヒントとなるいくつかの要因がある。

 実はオバマ大統領は2016年1月5日インターネットを通じた銃売買に身元調査を義務付けるなど、大統領権限に基づく銃規制強化策を正式発表したばかりだった。銃規制に反対する米国の有力ロビー団体「全米ライフル協会」(NRA)は、すかさず反発する声明を発表し、大統領権限の「職権乱用だ」と批判。国民の武器保有の権利を保障した合衆国憲法修正第2条を守るためにNRAは「闘い続ける」とした。

プロフィール

モーリー・ロバートソン

日米双方の教育を受けた後、1981年に東京大学に現役合格。1988年ハーバード大学を卒業。国際ジャーナリストからミュージシャンまで幅広く活躍。スカパー!「Newsザップ!」、NHK総合「所さん!大変ですよ」などに出演中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、円安が支え 指数の方向感は乏しい

ビジネス

イオンが決算発表を31日に延期、イオンFSのベトナ

ワールド

タイ経済、下半期に減速へ 米関税で輸出に打撃=中銀

ビジネス

午後3時のドルは147円付近に上昇、2週間ぶり高値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 7
    自由都市・香港から抗議の声が消えた...入港した中国…
  • 8
    人種から体型、言語まで...実は『ハリー・ポッター』…
  • 9
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 10
    「けしからん」の応酬が参政党躍進の主因に? 既成…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story