コラム

シルベスター・スタローンの不器用さが『ロッキー』を完璧にした

2024年02月03日(土)20時38分
ロッキー

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN

<映画の筋書きだけでなく、メイキングもサクセスストーリーなのが『ロッキー』。最初に観てからもう40年近くたつのに、今もずっしり心に残り続けている>

これまでの人生で、映画から多くを教わったことは確かだ。教訓の半分以上は映画から得たと誰かが書いていたけれど、さすがにそれは多すぎる。でも5分の1くらいはあるかもしれない。

もちろん、映画の全てが示唆や教訓にあふれているわけではない。観終えたら何も残っていないという映画もたくさんある。

ならばその逆に、観終えた後も何かがずっと残り続ける映画のランキングはどうなるのか。






とここまで書きながら、これはやっぱり難しいやと思い始めている。「観終えた後もずっと残り続ける」を要約すれば、「心に残るいい映画」ということになる。これについて総論的に書くには、いくらなんでも紙幅が足りない。でも1作だけ、最初に観てからもう40年近くたつのに、今もずっしり残り続けている映画がある。『ロッキー』だ。当時20代前半だった僕にとってこの映画は、明らかにリアルで衝撃的な体験だった。

無名の俳優だったシルベスター・スタローンは、低予算映画のエキストラや脇役などへの出演を続けながら、無名のボクサーが世界ヘビー級タイトルマッチの対戦相手に指名されて脚光を浴びるという脚本を書いた。プロデューサーのアーウィン・ウィンクラーが脚本に興味を示したが、スタローンは自分が主演でない限り脚本を売ることを拒否。最終的に予算が大幅にカットされることで合意して、初の主役を射止めたエピソードは有名だ。

要するに、映画だけではなく、そのメイキングもサクセスストーリーなのだ。監督はやはり(日本では)ほぼ無名だったジョン・G・アビルドセン。公開後はアカデミー作品賞など多くの賞を獲得して、世界中で大ヒットを記録した。

この映画の成功の理由は、シンプルすぎるくらいにシンプルなストーリーもそうだが、何といってもロッキー・バルボアを演じるスタローンの魅力に尽きる。

といっても、スタローンは決して演技派ではない。顔や体格はどう見ても、現れてすぐに消されるマフィアの用心棒だ。しかも(後に本人が語っているが出産の際の事故で神経が傷つけられて)、顔の一部が自由に動かなくなり、あの舌足らずなしゃべり方になってしまったらしい。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story