コラム

「謝らない謝罪」が日本で蔓延している

2021年07月28日(水)17時20分
菅義偉首相

Brendan Smialowski-Pool-REUTERS

<「誤解を与えたのであれば申し訳ない」とは、形を変えて加害を繰り返しているとすら言える言葉だ。ホテルから保健所、政治家、首相まで、そんな「謝らない謝罪」が多過ぎる>

この原稿を書いているのは東京五輪開会式の前日。今朝は開閉会式の演出担当である小林賢太郎氏が解任されたという速報で目が覚めた。

森喜朗大会組織委員会会長(当時)が女性差別発言で辞任したのが今年の2月だった。そこで明るみに出た人権意識の低さが、その後も繰り返し表面化し続けている。

つい先日もこんな報道があった。東京・赤坂のホテルがエレベーターに「日本人専用」「外国人専用」と掲示していたというのだ。コロナ禍で一般客と五輪関係者の動線を分ける目的だったとのことだが、そのための手段はあまりに稚拙で差別的だった。

加えて気になったのは、発覚後のホテルの「謝罪」コメントだ。「差別する意図はなかったが、誤解を生じさせてしまいおわびする」

「誤解」を生じさせてしまったことについて謝るとはどういう意味だろうか。少なくとも差別をしたことそれ自体についての謝罪でないことは明白だ。

しかも、誤解は理解の失敗(mis-understanding)であるわけだから、傷つけられた側、差別をされた側へと問題を転嫁し、「謝罪」風の言葉の中で、形を変えて加害を繰り返しているとすら言える。

英語にはnon-apology やnon-apology apology という言葉があるそうだ。日本語に訳せば「謝らない謝罪」や「謝罪なき謝罪」などとなるだろうか。オックスフォード大学出版局などが運営する辞書サイトのレキシコを見ると、次のような意味の言葉として紹介されていた。

「謝罪の形式を取ってはいるものの、侮辱や怒りを生み出した原因に対する責任や後悔を認めることにはなっていない声明」

ホテル側のコメントはまさにこれだ。だが、「誤解」を挟んで謝罪を脱臼させるこのような「謝らない謝罪」は、日本でも特に珍しいものではない。むしろ、蔓延しているとすら思える。列挙してみよう。

プロフィール

望月優大

ライター。ウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。著書に『ふたつの日本──「移民国家」の建前と現実』 。移民・外国人に関してなど社会的なテーマを中心に発信を継続。非営利団体などへのアドバイザリーも行っている。

日韓関係

衰える日本の自動車産業...日韓接近を促した「世界最大の自動車輸出大国」中国の電気自動車

The China Factor

2023年6月6日(火)12時40分
コーリー・リー・ベル、エレナ・コリンソン、施訓鵬(シー・シュンポン)(いずれもシドニー工科大学・豪中関係研究所)
韓国の尹錫悦大統領と岸田文雄首相

首脳会談に先立ち、韓国人原爆犠牲者慰霊碑を訪れた韓国の尹錫悦大統領(左)と岸田文雄首相(5月21日、広島市) YUICHI YAMAZAKIーPOOLーREUTERS

<戦後最悪の関係から急速な改善へと日本と韓国を動かす中国ファクター>

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無差別殺傷事件は6月に多発... 日本がいまだ「自爆テロ型犯罪」に対して脆弱な理由

2023年6月2日(金)18時50分
秋葉原無差別殺傷事件の現場

秋葉原無差別殺傷事件発生直後の現場(2008年6月8日) Issei Kato-REUTERS

<性格も境遇もバラバラな犯人の動機についてばかり考えるのではなく、「なぜここで」という視点から犯行機会を減らそうとすることが重要だ>

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日本社会

学歴格差が引き起こす残酷なネガティブスパイラル

2023年5月31日(水)10時15分
舞田敏彦(教育社会学者)
履歴書の学歴記入欄

日本が学歴社会であることは誰もが認めるところだが…… takasuu/iStock.

<小中卒の刑務所入所率は大卒の25倍にもなるが、その背景には学歴差別による経済的困窮がある>

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日本政治

【動画】岸田首相の長男更迭、「組閣ごっこ」写真を報じるインドメディア

2023年5月30日(火)13時35分
首相官邸での「閣僚ごっこ」

WION-YouTube

<週刊文春の「首相公邸での大ハシャギ」報道がとどめとなり、岸田首相は長男の翔太郎政務秘書官を更迭した>

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日本社会

「日本の人口問題は防衛問題」──世界が慎重に見守る、日本の「急速な」少子高齢化

JAPAN’S DISAPPEARING ACT

2023年5月24日(水)15時50分
ジョン・フェン(本誌記者)
交差点

RUBEN EARTH/GETTY IMAGES

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