コラム

就活ルールの議論では、企業も大学も学生のことを考えていない

2018年10月30日(火)14時50分

例えば、レノボグループは2011年のNECのPC事業に続き、昨年には富士通のパソコン事業である富士通クライアントコンピューティングの51%の株主となり傘下に収めた。東芝の医療事業の中心であった東芝メディカルシステムズは、昨年キヤノングループ入りし、今年の1月には社名がキヤノンメディカルシステムズに変わった。

企業や事業が普通に売り買いされる時代には、ひとつの会社で一生勤め上げようと思っていても、それが許されない状況が突然訪れるのだ。自分の人生は自分のものであると自覚して、自らのキャリアを自ら切り開かなければならない時代なのだ。

新卒最低年俸720万。もちろん全員ではない

かつて新卒採用の初任給は、大卒、大学院卒などの学歴で一律というのが当たり前だった。しかし、例えばメルカリは、2月に新人事制度を導入した。「内定者に対し、個人のスキルやバリューに応じた適正なオファー(年収)を、学年不問・時期不問で提示」「インターンや大学での研究成果やイベント登壇といった学内外の活動を通して内定期間に有力なスキルや経験を身につければ、初任給として提示した報酬が上がる可能性がある」という。

サイバーエージェントも今年1月、エンジニアを対象に、これまで一律で定めていた初任給制度を撤廃し、個々人の能力別給与体系に変更した。さらに、高度な技術や実績、成果を持つ学生を対象に「エキスパート認定」制度を導入。認定されれば、最低年俸720万円~(60万円/月~)となると発表した。

また、グローバル化の影響も避けて通れない。昨年、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の初任給40万円という求人情報が話題になった。昨年11月15日の日経新聞の記事には、「欧米企業にやっと肩を並べたレベルで、珍しくはない。優秀な人を取るためのグローバルスタンダードです」(ファーウェイ・ジャパン広報)とのコメントが載っている。

エンジニアなど獲得競争の激しい職種から始まっているとはいえ、少しずつだが、新卒を一律に見る風潮はすでに崩れ始めている。

基礎教育が不要な、大手を辞めた2~3年目を狙う企業

一方、若手採用を見直した中小企業もある。企業名は出せないが、新卒採用を縮小して、大手に入社して2~3年で辞めた人を集中的に採用しようと考えているのだ。

理由は明確だ。中小だと新卒の育成に時間もお金も掛けられない。大手は充分な新人研修をして、きちんと育てており、中小よりレベルの高い教育が施されている。自分で育てるよりも、育ててもらった人を採用する方がてっとり早い。大企業の意思決定の速度や、役職階層の多さに嫌気がさして辞める人には、中小のベンチャー企業は魅力的に見えるので、そのターゲットを徹底的に狙うというのだ。

このような採用方法の良し悪しは置いておいて、入社式直後でも、合わないと思ったら平気で辞めていくことさえ当たり前になりつつある時代である。企業は今後も新卒を育成する費用と時間を負担し続けるだろうか。

2015年に入社した大卒新人が今年3月31日までに離職した「3年以内の離職率」は31.8%(厚生労働省調べ)。3人に1人はもう居ないのだ。教育投資をして、やっとこれからという時に辞めていく人が増えれば、教育の責任を企業が持ち続けるだろうか。新卒を一括で採用し、一律に教育して育てるというあり方を見直し始める企業も出てくるはずだ。

プロフィール

松岡保昌

株式会社モチベーションジャパン代表取締役社長。
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からアプローチする経営コンサルタント。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士の資格も持ち、キャリアコンサルタントの育成にも力を入れている。リクルート時代は、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントとして活躍。ファーストリテイリングでは、執行役員人事総務部長として同社の急成長を人事戦略面から支え、その後、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長として広報・宣伝のあり方を見直す。ソフトバンクでは、ブランド戦略室長、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役などを担当。AFPBB NEWS編集長としてニュースサイトの立ち上げも行う。現在は独立し、多くの企業の顧問やアドバイザーを務める。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、国防産業監督機関の元幹部を汚職で起訴

ワールド

韓国企画財政相、米投資案件を事前審査へ 法案可決前

ビジネス

英BP、第4四半期利益は予想通り 自社株買いを停止

ワールド

仏大統領、欧米対立再燃を警告 EUに改革促す
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 8
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 9
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 10
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story