コラム

「レアメタル」は希少という誤解

2023年07月25日(火)17時05分

中国が8月1日より輸出規制を強めると発表したガリウムとゲルマニウムがその典型である。ガリウムはレアメタルの一種だとされているが、2022年の生産量は550トンだったのに対して、その資源量はボーキサイトに付着している分が100万トン以上、亜鉛に付着している分もかなりあるという(USGC, 2023)。ボーキサイトや亜鉛についているガリウムのうち実際に回収できるのは10%以下とされているものの、それでも優に200年分であり、ほぼ無尽蔵といってよいであろう。また、ゲルマニウムも亜鉛などと一緒に採取できるほか、石炭を燃やした灰や煤からも採取でき、その資源量は特に調べるまでもないほど豊富なようだ。

貿易戦の「武器」にしたのは中国の勘違い

ところが、ガリウムでは中国が世界生産の98%を占め、ゲルマニウムでは中国が7割近くを占めている。そのため、中国政府はこれらの鉱物の輸出を制限すればアメリカなどに対抗する「武器」にできると勘違いしたのであろう。だが、しょせんどちらも無尽蔵にある資源なので、仮に中国が輸出を全面的に停止するとしても、短期的な価格上昇ぐらいはあるかもしれないが、やがて他の国での生産が拡大し、中国の世界シェアが下がるだけの結果となろう。

ただ、今回の中国の措置がアメリカや日本による半導体製造装置の輸出規制に対抗するためのものだとすれば、もしそれに効果がないとなると、中国は次の一手を繰り出してくることが予想される。そうした展開を回避するには、ガリウムとゲルマニウムが中国から輸出されなくなるととても困る、と中国に抗議しておいた方がよいかもしれない。

そもそもレアアース、ガリウム、ゲルマニウムは資源が無尽蔵なのになぜ「レアメタル」とされているのか。

実は、「レアメタル」という用語は日本独自のものであり、1984年に通産省の鉱業審議会レアメタル総合対策小委員会が31種類の鉱物を「レアメタル」に指定した(原田、2009)。いかなる基準でその31種類が指定されたかというと、「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属のうち、工業需要が現に存在する(今後見込まれる)ため、安定供給の確保が政策的に重要であるもの」(経済産業省、2014)を選んだのだそうである。また、「鉱物資源が偏在している金属」が選ばれたのだ、と説明している本もある(田中、2011)。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FRBに2.5%の利下げ要求 「数千億

ビジネス

英ポンド上昇、英中銀の金利軌道の明確化を好感

ワールド

スペースX「スターシップ」、試験飛行準備中に爆発 

ビジネス

ECB、インフレ目標達成に向けあらゆる努力継続=独
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディズニー・ワールドで1日遊ぶための費用が「高すぎる」と話題に
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 6
    マスクが「時代遅れ」と呼んだ有人戦闘機F-35は、イ…
  • 7
    下品すぎる...法廷に現れた「胸元に視線集中」の過激…
  • 8
    全ての生物は「光」を放っていることが判明...死ねば…
  • 9
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越しに見た「守り神」の正体
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 10
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 5
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story