コラム

NTT-NEC提携「5Gでファーウェイに対抗」の嘘

2020年08月13日(木)20時34分

ドコモの親会社でもあるNTTが、通信機器サプライヤーであるNECと出資関係を持つことは利益相反に陥る危険性のある行動である。通信業者としてのNTTやドコモにとって、購入する通信機器は安いほうが自社の儲けは大きくなる。ところが、通信機器サプライヤーが自社の関連会社だということになると、遠慮なく買い叩くわけにもいかなくなる。NTTとドコモは、NECの機器が高くて性能も悪いのに、関連会社だという温情にほだされて買い支えることによって、自社の儲けを削る羽目に陥るかもしれない。

「世界に打って出る」というのも、NECが過去20年間に何度も繰り返してきた空約束にすぎない。例えば、2000年には当時NECの社内カンパニーの一つであった「ネットワークス」(通信機器や携帯電話)の海外売上比率が30%ほどだったのを「中期的には約50%に高めたい」としていた。しかし、実際にはNEC全体の海外売上比率は下落し、2002年には22%まで落ちた。

2004年には「海外携帯電話機市場が成長の柱」であると強調していたが、実際には2006年末に海外の携帯電話機市場から全面的に撤退した。2007年には会社全体の海外売上比率を30%以上にすることを目標にしていたが、実際には2010年に15%まで落ちた。その後海外売上比率は上昇に転じたものの、2018年度の時点でも24%にすぎない。

「やってる感」の演出か

以上のようにNECとNTTの資本提携に何らかの積極的意義があるとは思えないのだが、気になるのはその背後で日本政府の意向が働いているらしいことだ。『日本経済新聞』(2020年6月26日)の記事をそのまま引用すると、「『国内の機器メーカーを世界で戦えるようにするのが主眼だった』。経済産業省幹部は提携の狙いをこう話す。」

――実に不可解な一文である。提携した主体はNTTとNECであるはずなのに、なぜ経済産業省幹部がその狙いを説明するのか? それは今回の資本提携が経済産業省の働きかけによって実現したものだからだ、と解釈すれば、この不可解な一文も理解可能となる。

NECの幹部たちは、世界の移動通信インフラ市場で30.8%のシェアを持ち、研究開発費に年2兆円も投じるファーウェイに、シェアわずか0.7%の自社がとうてい太刀打ちできず、せいぜい日本市場を他の海外勢に奪われないようしがみついていくしかないことをよく認識しているはずだ。しかし、政府・経済産業省からはもっと海外市場へ打って出ろとハッパをかけられる。そこでオールジャパンで「やってる感」を演出してみた、というのが今回の提携劇ではないのか。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止措置施行、世界初 ユーチ

ワールド

ノーベル平和賞受賞マチャド氏の会見が中止、ベネズエ

ワールド

カンボジア高官「タイとの二国間協議の用意」、国境紛

ワールド

メキシコ、9日に米当局と会談へ 水問題巡り=大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story