コラム

IR汚職、500ドットコムとは何者か?

2020年01月05日(日)19時50分

この時に創業者の羅昭行氏もCEOを退き、それと入れ替わるように国有企業の紫光集団(Tsinghua Unigroup)が16%余りの株を取得して最大の株主となった。サッカーくじのオンライン販売という事業を失った500ドットコムはここから迷走を始める。

紫光集団は清華大学が所有する企業であり、半導体とクラウドコンピューティングを主な事業とする。携帯電話用のICチップを開発する民間企業を買収したり、フラッシュメモリの工場を新設するなど、半導体産業の強化を悲願とする中国政府の方針を体現してきた。中国では一口に国有企業といってもまるで民間企業のように自由な経営を行う国有企業もあれば、国策を体現している国有企業もあるが、紫光集団は後者の典型である。清華大学は習近平の出身校でもあるので、なおさら国策に寄り添っていこうという気持ちがあるのかもしれない。

ただ、紫光集団が大株主になってからの500ドットコムは、およそ国策とは関係なさそうな分野に手を出しては失敗するということを繰り返してきた。500ドットコムが2015年以降手掛けた事業として、オンラインの支払いサービス、スポーツ情報サービス、商品取引、スマホのポーカーゲーム、オンラインのカジノなどがある。

オンライン・カジノが売り上げの8割超

このうち、現時点でまだ継続しているのはオンライン・カジノ事業と商品取引だけで、特にカジノ事業は2018年の売上1.3億元のうち8割以上を占めている。500ドットコムは2017年にマルチ・グループ(TMG)というマルタの会社を買収してカジノ事業に参入した。TMGはヨーロッパに拠点を置き、北欧、ドイツ、イギリスなどの顧客を対象にオンラインのカジノを運営している。

また、2018年に500ドットコムは、中国でのサッカーくじの発行元である国家体彩中心との間で、オンラインでくじを注文し、オフライン(=売り場)でくじを買うという業務を行うという契約を結んだ。これによって、もともとの事業であるサッカーくじに復帰できる希望も少し見えてきたが、売上に対する貢献はまだ極めて小さい。

紫光集団は2015年に資本参加してから、次第に関与を深めており、2018年末現在、32%の株を保有し、会長も出している。しかし紫光集団がいったい何を考えてこのような会社に投資しているのか不明である。紫光集団が出資して以来、図にみるように500ドットコムの赤字は膨らむ一方である。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

オラクルやシルバーレイク含む企業連合、TikTok

ビジネス

NY外為市場=ドル、対ユーロで4年ぶり安値 FOM

ワールド

イスラエル、ガザ市に地上侵攻 国防相「ガザは燃えて

ワールド

米国民、「大統領と王の違い」理解する必要=最高裁リ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story