コラム

IR汚職、500ドットコムとは何者か?

2020年01月05日(日)19時50分

500ドットコムのホームページ 500.com

<日本のカジノ参入を目指し、日本の複数の政治家に賄賂を渡していたとされる中国企業「500ドットコム」は、中国経済専門の筆者さえ初耳の無名企業。その正体を探ると、日本の統合型IR事業の危うさが見えてきた>

昨年の年末、自民党の秋元司衆議院議員が収賄の疑いで東京地検に逮捕された。秋元議員がカジノを含む統合型リゾート(IR)を担当する内閣府副大臣であった時に、カジノ参入を目指す中国企業から賄賂を受け取ったという容疑である。贈賄側の中国企業「500ドットコム」は他にも国会議員5人に対して現金を渡したと供述しており、IR疑獄はさらに広がっていきそうである。

ところで、私は「500ドットコム」という中国企業のことを今回の事件を通じて初めて知った。そもそも中国ではマカオ特別行政区を除けばカジノはおろか、競馬や競輪などの公営ギャンブルさえ存在しないので、そんな中国本土から日本でのカジノ事業に参入しようとする企業があること自体、私には驚きだった。いったいこの「500ドットコム」というのはどういう会社なのだろうか。

「500ドットコム」は中国では「500彩票網」という名前で通っており、もともとサッカーくじをネット上で販売するシステムを運営していた。中国では中国体彩中心という公的機関によって2001年からサッカーくじ(リーグの試合の勝敗を当てる日本のtotoと同じ仕組)が発行されているが、500ドットコムの創業者である羅昭行(マンサン・ロー)氏はそれをオンラインで買えるようにしたのである。

500ドットコムは2008年には国家ハイテク企業に認定されるなど順調に発展してきた。2012年には財政部からインターネットを通じたサッカーくじの販売を認められた2社のうちの1つとなり、政府のお墨付きも得た。

2年で売り上げがゼロに

翌2013年にはセコイヤ・キャピタルの出資を受けて、ニューヨーク証券取引所に株式を上場し、IPO(新規公開株)によって8000万ドルを調達した。2014年にはFIFAワールドカップブラジル大会があったり、スマホでサッカーくじを買えるようになったりしたことで業績が大きく伸び、売上が5.8億元(100億円)、経常利益が1.6億元(27億円)とピークに達した(図)。

ところが、2015年には売上が1億元に急落し、2016年にはほとんどゼロになってしまった。その原因は政府によるサッカーくじの販売に対する規制が強化されたことにある。2015年1月に、中国政府は無認可業者によってサッカーくじのオンライン販売がなされていないかどうか精査すべきだ、と各地方の政府に対して厳命したのである。500ドットコムは政府公認のオンライン販売業者であったはずだが、地方政府から次々と500ドットコムを通じたサッカーくじ販売の暫時中断を告げられた。販売再開の見通しが立たないことから、500ドットコムは2015年4月をもってインターネットを通じたサッカーくじの販売を中止する決断をせざるをえなかった。

chartmarukawa.png

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story