コラム

泥沼化する米中貿易戦争とファーウェイ「村八分」指令

2019年06月24日(月)17時00分

中国・深圳の国際空港にあるファーウェイのロゴ Aly Song-REUTERS

<トランプ政権は、中国製品に理不尽なまでの制裁関税をかけ、ファーウェイに対するアメリカ製品の輸出を禁止した。トランプに態度軟化の気配は見えず、中国はこれ以上被害が広がらないうちに折れたほうが賢明ではないか>

米中貿易戦争は私たちの想像を超える最悪のシナリオをたどってきている。

昨年12月の米中首脳会談で3か月間は追加的な関税引き上げを行わない「休戦」が合意されて解決へ向かう兆しも見えたが、今年5月10日に交渉が決裂。アメリカは中国からの輸入2000億ドル分にかける追加関税を10%から25%に引き上げた。中国もそれに対する報復だとして5月21日にアメリカからの輸入600億ドル分に対する追加関税を10~25%に引き上げた。

トランプ政権はさらに対中関税引き上げの「第4弾」として、中国からの輸入3000億ドル分に対して最大で25%の追加関税を課す計画も発表した。これまではアップルやナイキなどアメリカ企業が中国に生産を委託している商品や、スマホ、携帯電話、衣服、靴といった消費者への影響が大きい商品は追加関税の対象から外す配慮が行なわれていたが、ここへ来てそうしたタガも外されようとしている。この「第4弾」が発動されると、アメリカの中国からの輸入のほぼすべてが制裁関税の対象となる。

大義名分の立たない制裁

そもそも制裁関税の根拠となっている通商法301条は、相手国の不公正な貿易に対する制裁として関税の上乗せを認めるものである。昨年7月以来の総計2500億ドル分の輸入に対する25%の関税上乗せは、「中国政府がアメリカ企業に技術移転を強要していること」に対する制裁という理屈付けになっている。

通商法301条は日米貿易摩擦がたけなわだった1980年代後半から90年代前半にかけて、アメリカが日本に圧力をかけて譲歩を引き出す手段として盛んに使われた。実際に発動されたのは1987年3月で、その時は日本による半導体のダンピング輸出によってアメリカに損害が生じたとして、日本からのパソコン、テレビ、電動工具の輸入に対して100%の関税が上乗せされた。日本の不公正な貿易によって3億ドルの損失が生じたのでそれを取り返すという名目でこの水準となった。つまり、この時は被害と制裁の規模、被害が生じた分野と制裁する分野との間である程度バランスがとれるように一応の配慮がなされていた。

だが、トランプ政権が行っている対中制裁関税ではそうした配慮は一切ない。知的財産の不正な取得に対する制裁として中国からの輸入すべてに関税を課すというのはあまりに規模が大きすぎるし、アメリカ企業から中国の生産者に対して正式な技術ライセンシングが行われていることが明々白々な委託生産品や外資系企業の製品にまで課税するというのはどう考えても道理に合わない。もはや中国を屈服させることだけが自己目的化し、制裁の大義名分も眼中になくなったようである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀の国債買い入れ前提にせず財政政策運営=片山財務

ビジネス

中立金利は推計に幅、政策金利の到達点に「若干の不確

ワールド

米下院補選で共和との差縮小、中間選挙へ勢いづく民主

ビジネス

米ロッキード、アラバマ州に極超音速兵器施設を新設
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story