コラム

今年は危ない中国経済

2019年01月29日(火)15時30分

中国ではGDP成長率が発表されるのと同時に主要な鉱工業製品と農産品の生産量の統計が発表される。こうした生産量の統計はほぼ信頼していいと私は思っている。中国では1950年代から生産量の統計がずっと作成されており、自動車、鉄鋼、石炭といった主要産業についてはすべての企業が生産量を政府機関に報告している。

生産量の数字が全国からすぐに上がってくる仕組みがあるから、毎年1月21日に前年のGDPを発表するという早わざが可能になっているのだと思う。そして、鉱工業製品の生産量の動きと、鉱工業の成長率とはかなり整合性がある。2005年から2013年まで、34種類の鉱工業製品の生産量の伸び率に、産業構造のウェイトを加えて平均すると、発表されている鉱工業の成長率とほぼ一致した動きを示す。例えば、2011年は生産量が平均で10.3%伸びたのに対して、鉱工業の成長率は10.4%の伸びだった。

ところが2015年には両者の関係が大きく乱れた。この年はコークス、苛性ソーダ、セメント、板ガラス、鉄鋼、乗用車、パソコン、電力の伸び率がいずれもマイナスだった。発表された主要工業製品18種類の生産量の伸び率を加重平均すると、マイナス0.5%だった。ところが、中国の国家統計局が発表した鉱工業の成長率は6.0%である。

こういうことは絶対にありえない、というわけではない。生産量は減っても、製品の単価が上がったのであれば、成長率がプラスということもありうる。しかし、それまで生産量の平均伸び率と鉱工業の成長率とが整合的だったのに、2015年になって突如乱れたので、この成長率6.0%という数字は怪しいと思ったのである。

そこで、鉱工業の統計がまともだと思われる2005年から2014年までの生産量伸び率と成長率との関係を利用し、生産量の方から成長率を推計してみた。その結果と、公式発表の成長率を表2に示した。2015年はすごく怪しいが、2016年はかなり正常である。

しかし、2018年は自動車、携帯電話、発電設備、布、パソコンなどの生産量が減少しているにも関わらず、鉱工業成長率は6.1%と発表されたので、再び統計数字への疑惑が強まった。

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実際のところ、中国政府は2018年後半からかなりの景気悪化を懸念しているようである。財政では、中小企業や個人に対する所得税を減税し、社会保障費負担を減らす方針だし、2019年に地方債を2兆元発行する予定なのを繰り上げて発行する方針も出された。都市の地下鉄などのインフラ建設もどんどん認可している。どう見ても政府は景気刺激策に傾いているように見える。本当にGDP成長率が目標を達成したのであればこんなに刺激策を打たなくてもいいはずではないか。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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