コラム

今年は危ない中国経済

2019年01月29日(火)15時30分

では「本当のGDP成長率」は果たしてどれぐらいなのだろうか。

鉱工業と農業については、生産量という頼りになる統計があるので、それに依拠して公表されている成長率を批判できるのだが、第三次産業に関しては、公表された成長率を批判する根拠となるような他の統計がない。公表統計を信じるか信じないかの二者択一しかないのだ。

そこで二種類の推計を行った。表3の「推計1」は、鉱工業の成長率だけがウソであり、それについては私の推計値を用いるが、他の産業についてはすべて公表統計を信じるという方針で行った推計である。「推計2」はGDPの公表統計はすべて信じず、鉱工業の推計値から他の産業を類推した。鉱工業はGDPの3分の1強を占める最も重要かつ影響力の大きい産業なので、鉱工業成長率とGDP成長率は比例している、と仮定した。

012805.jpg

推計2の2018年の数字(2.4%)は、中国人民大学の教授が言ったものにかなり近い。

ただ、推計2は中国のサービス産業化を完全に無視している。実際には中国でも第3次産業の比重がだんだん高まっているはずである。とりわけ最近はインターネット関連産業の発展が目覚ましく、それが中国経済の成長を支えているのは間違いない。だから、真のGDP成長率は推計1と推計2の間のどこかだと見ておくのが妥当なように思われる。

さて、2019年の中国経済はどうなるだろうか。

私は不動産バブルの崩壊が近づいているのではないかと危惧している。ここのところ中国全土で猛烈な勢いで高層マンションが建設されているのは誰の目にもわかる。果たして買い手がつくのだろうかと心配になることも多い。図には2018年末時点での中国の不動産業トップ10社の総資産と総負債の推移を示したが、5年間で総資産は4.6倍、総負債は5.1倍に膨らみ、2018年6月末時点でこの10社の負債は総額7.2兆元(120兆円)におよぶ。

012804.jpg

不動産会社は銀行からの借入や社債の発行でどんどん資金を調達してどんどん不動産を建てる。今のところ多くの都市では不動産価格の上昇が続いているので、不動産が売れても売れなくても帳簿に記載される資産価値はとりあえず負債を上回る。そのため、財務上は健全に見え、さらに資金を借り入れることができる。

だが、不動産が売れないと借金や社債の返済期限が来た時には困る。恒大研究院によると、2018年6月末時点で中国の不動産業の総負債は19兆2000億元(320兆円)にのぼるが、2019年にはうち6兆1000億元(100兆円)の返済期限が来るという(『経済参考報』2019年1月9日)。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

元、対通貨バスケットで4年半ぶり安値 基準値は11

ビジネス

大企業の業況感は小動き、米関税の影響限定的=6月日

ワールド

NZ企業信頼感、第2四半期は改善 需要状況に格差=

ビジネス

米ホーム・デポ、特殊建材卸売りのGMSを43億ドル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 3
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story