コラム

今年は危ない中国経済

2019年01月29日(火)15時30分

2018年には、主な鉱工業製品の生産量の伸びがマイナスだったにも関わらず、鉱工業成長率は6.1%だった Thomas Peter-REUTERS

<中国のGDP成長率は2015年以降ずっと6%台後半でウソのように固定されている。筆者の推計では2018年の「本当の」GDP成長率は2.4%程度だった可能性もあるという。だとすれば、今年はどうなるのか>

モーグルスキーの名選手だった上村愛子さんは、最初のオリンピック挑戦だった長野大会で7位、ソルトレークシティー大会では6位、トリノ大会では5位に入賞した。続くバンクーバー大会では今度こそメダルと期待が高まったが、惜しくもメダルには届かず4位になった。その時のインタビューで上村さんは「私はなんでこんなに一段一段なんだろう」と悔し涙を流し、私も思わず涙がこぼれた。

──1月21日に発表された中国の2018年のGDP成長率を見たとき脳裏によみがえったのが、このインタビューだ。「中国のGDPは、なんでこんなに小刻みなんだろう」

表1をみてほしい。2015年から中国の成長率はまるで凍り付いたかのように前の年に比べて0.1か0.2しか動かなくなった。

012801.jpg

表1では日本のGDP成長率も並べてみたが、実感では中国よりもずっと穏やかな日本の方が、数字の上下動が激しい。中国では毎年3月の全国人民代表大会でその年のGDP成長率の目標が決められるが、実績はすべて目標値マイナス0.1からプラス0.3の間に納まっている。これを額面通りにとれば、中国政府にはものすごい予知能力と経済のコントロール能力があるということになる。

ハッキリ言ってこれはできすぎである。誰だって統計数字の操作を疑うはずだ。中国政府は実際には毎年生産能力が過剰だとか、経済に下向きの圧力がかかっているとか慌てているように見えるが、こんなにコントロール能力が高いのであれば慌てる必要などないはずではないか。

そうした疑惑が高まるなか、昨年12月にある事件が起きた。中国人民大学の教授が「最近、ある重要な研究機関が内部向けのレポートで中国の今年の成長率の推計を行ったところ、1.67%ないしマイナス成長だった」と講演している映像が中国のネットで流れたが、その直後に削除されたのだ。中国国外ではYou Tubeでその映像が見られるので私も見たが、率直に言って、もし削除されていなければこんな意見もあるかという程度で受け流されていたであろう内容である。削除されたためにかえって「教授は当局が隠しておきたい重要な真実にふれたのではないか」と注目されたのである。

私自身はGDP成長率が6%台後半に固まってしまう現象が始まった2015年から中国のGDP成長率の統計はおかしいと思ってきた。私の疑念の根拠は単純で、主要な鉱工業製品の生産量が減っているときにどうして経済全体が7%近くも成長できるのか、ということに尽きる。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

11月ショッピングセンター売上高は前年比6.2%増

ビジネス

中国の海外ブランド携帯電話出荷台数、11月は128

ワールド

日経平均は小反発、クリスマスで薄商い 売買代金は今

ワールド

タイ11月輸出、予想下回る前年比7.1%増 対米輸
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story