コラム

米中貿易戦争・開戦前夜

2018年06月22日(金)22時55分

トランプ大統領が2000億ドル分の中国製品に追加関税を検討すると発表した6月19日、NY株は大きく動揺  Brendan McDermid-REUTERS

<米中間の貿易摩擦に対する懸念が一段と高まり、NY株も続落している。このまま報復課税合戦になれば、米中経済を傷つけるたけでなく、日本など第3国の経済も道連れになる。希望は、中国が報復合戦を降りることだが>

6月15日に、米トランプ政権は中国による知的財産権侵害に対抗するとして、通商法301条を発動し、中国からの輸入500億ドル分に対して25%の制裁関税を課すと発表した。課税は2段階に分けて行い、まず7月6日には818品目(輸入340億ドル分)に課税し、284品目(輸入160億ドル分)については関係者からのヒアリングを経て今後決めるという。

それに対して中国の商務省も直ちに反応し、アメリカが7月6日に課税を始めたら、すぐさまアメリカからの輸入340億ドル分に対して25%の報復課税を行い、160億ドル分の輸入に対してもアメリカが課税したら報復すると言っている。

するとトランプ大統領はさらに中国から輸入2000億ドル分に10%の追加関税を課するのだといって、米通商代表部(USTR)にどの品目に課税するか検討するよう指示した。そうなると中国もそれに見合った報復をする可能性があるが、中国のアメリカからの輸入は1300億ドルほどにすぎないので、輸入以外に、例えばアメリカ企業の中国での事業に対する報復をするのではないかと噂されている。

米中の間で全面的な貿易戦争が始まったら、日本など他の国の経済も大きな影響を受ける。というのは、アメリカが制裁関税をかける品目の大部分が機械だからである。

トランプ政権は、中国がアメリカ企業に技術移転を強要するなどしてアメリカの知的財産権を侵害し、それによって「中国製造2025」というハイテク産業育成戦略を推進している、だから制裁関税は「中国製造2025」に挙がっている分野を狙うのだという。

日本の対中輸出も減少

アメリカが第1弾として課税する818品目は、ほぼすべてが産業用機械、輸送機械、精密機械の分野に属する。機械は国際分業を通じて作られるから、中国がアメリカに輸出する機械のなかに日本、韓国、台湾、東南アジアから中国へ輸出される部品や材料も組み込まれているはずである。従って、アメリカの課税によって中国からアメリカへの輸出が減れば、日本などから中国に向かう輸出も減る。

もちろん中国製の機械に高い関税がかかることで輸出が不利になれば、日本製、韓国製の機械がアメリカ市場で中国製機械から市場を奪う可能性もある。米中の貿易戦争は第3国にとって悪い話ばかりでもなく、漁夫の利が得られる可能性がある。

しかし、貿易戦争が始まれば、米中双方でさまざまな物の値段が上がり、双方の実質所得がそれによって低下する。そうなると、日本など第3国から米中への輸出は全般的にマイナスの影響を受ける。こうしたマイナスの影響は「漁夫の利」をはるかに上回るだろう。つまり、貿易戦争は米中双方だけでなく、第3国のGDPをも押し下げることになる(みずほ総合研究所「内外経済見通し」2018年5月17日)。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条

ワールド

EU産ブランデー関税、34社が回避へ 友好的協議で

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 自由取り戻すと
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 8
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story