コラム

アリババ帝国は中国をどう変えるのか?

2017年05月10日(水)15時18分

ほどなくして中国でもインターネットがみられるようになった。馬雲とそのグループはこの時期に政府・国有企業と二つの共同事業を行った。まず、1997年に国有通信会社の杭州電信が「中国イエローページ」に出資して共同事業にすることを持ちかけてきた。続いて、中央政府の対外経済貿易合作部が、電子商取引サイト「中国国際電子商務中心」を立ち上げたいというので馬雲のグループを北京に呼び寄せた。

馬雲たちはこの二つの提案のいずれにも乗るのだが、結局馬雲たちはいずれの事業でも政府・国有企業の側に騙された格好となった。杭州電信は馬雲たちが作った「中国イエローページ」を勝手に複製して乗っ取ってしまう。対外経済貿易合作部は「中国国際電子商務中心」の持ち分の30%を馬雲たちに与えると約束していたが、その約束を守らない。

結果的に馬雲たちは自分たちが立ち上げたウェブサイトを2度にわたって協力相手だったはずの政府・国有企業に奪われてしまう。失意のなか杭州に帰った馬雲たちが1999年に創業したのがアリババである。アリババが手掛けたのは中小企業を対象とするB2B(business to business企業対企業)の電子商取引であった。

ソフトバンクが大株主に

世界の電子商取引で成功しているのは、アマゾンや楽天のようなB2C(business to consumer企業対個人)か、あるいはeBayやヤフオク!のようなC2C(consumer to consumer個人対個人)である。特に日本では、企業間の取引はよく知っている取引相手と長期的かつ安定的に行う傾向が強く、企業間の取引をインターネットを通じて、いわばその場限りで行うというのはなかなか考えにくい。

ところが、中国では製造企業が生地や部品などの中間財を買い入れたり、小売業者が商品を仕入れたりするのに、紹興の化繊織物市場、義烏の小商品市場、深センの電子部品市場など、オープンな卸売市場を利用することがかなり一般的である。特に中小企業は主にそういう卸売市場を利用して製品を販売したり、中間財を仕入れたりすることがよくある。
馬雲もかつて翻訳会社をやっていた時、義烏の小商品市場へ行って靴下や日用品を仕入れて事務所で販売していた。そうした経験から、馬雲は中国では中小企業向けにB2Bの取引を行うプラットフォームを開設すれば商機があるはずだと予想したのだろう。

アリババがB2B取引サイト事業の立ち上げに苦労していた時期に、ソフトバンクの孫正義がアリババに着目し、2000年1月に2000万ドルを出資し、これによってソフトバンクはアリババの大株主になった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story