コラム

ドイツ発の新産業革命「インダストリー4.0」の波に乗ろうとする中国企業と、動きが鈍い日本企業

2016年05月06日(金)15時24分

ハノーファー・メッセでVRグラスを試すオバマと主催国のメルケル Kevin Lamarque-REUTERS

 ドイツの産業見本市「ハノーファー・メッセ」が4月25日から29日まで開催されました。同メッセでは毎回パートナー国が指定されますが、今年はアメリカがパートナー国だったため、開催式にはオバマ大統領が駆けつけ、ドイツのメルケル首相とともに挨拶する様子がニュースでも流れました。

 さて、ハノーファー・メッセは日本の新聞では「産業見本市」と形容されますが、より正確にいえば産業用機器に特化した展示会です。ハノーファー・メッセが世界的注目を集めているのは、ドイツ政府が2013年に「インダストリー4.0」、すなわち「第4の産業革命」を推進するという構想をぶち上げたことに由来します。ドイツが何やら新奇なことを始めようとしているらしいが、ハノーファー・メッセを見学すればそれが何かわかるかもしれない。そんな淡い期待を持って門外漢の私までのこのこ見に行きました。

第4の産業革命とは

 私が理解したところでは、インダストリー4.0とはモノのインターネット(IoT)を活用し、製造やサービスの自動化・無人化を推進することです。重要なポイントは、個別の状況や客に応じて製品やサービスをカスタマイズするという、従来は人がやっていたことをも自動化してしまうところにあります。わかりやすい例がドイツの産業用ロボット大手Kukaが実演したCoffee4.0で、客が自分のスマホに好みのコーヒーのタイプ、砂糖やミルクの加減などを入力すると、バリスタ・ロボットが作ってくれます。

IMG_9278-2.jpg
ユーザーの好みに応じたコーヒーを作ってくれるロボット Tomoo Marukawa

 さて、ハノーファー・メッセでの私のもう一つの関心事は、中国企業がインダストリー4.0にどのように関わっているのかということでした。これについては期待にたがわず、中国企業はドイツ企業に次ぐ存在感を示していました。実際、メッセのウェブサイトで出展者を国籍別に検索すると、全部で5392の企業や機関が出展したなかで、地元ドイツが2340社・機関で最も多いのですが、中国はそれに次ぐ718社・機関で、今回のパートナー国であるアメリカの415社・機関を上回っています。

 中国の大手企業ではファーウェイ(華為技術有限公司)が大きな展示をしていました。ドイツではスマホメーカーとしてのイメージが強いファーウェイですが、今回のメッセではドイツ企業Q-Cloudと共同で開発した、工場内の機械や空調などをIoTで結んでパソコンなどで管理したり操作することを可能にするシステムや、あちこちを走っているトラックがどのように稼働しているかを本社に伝えるシステムなどを展示し、まさにインダストリー4.0の核心を担う力があることをアピールしていました。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 10
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story