コラム

ロシアの「師団配備」で北方領土のロシア軍は増強されるのか

2017年02月24日(金)20時00分

北方領土の「海軍」化?

この際、所属が陸軍から海軍に変わるということも考えうる。

近年のロシア軍は、海軍を中心とした国境防衛体制を採用してきた。

つまり、国土の沿岸部分では海軍を中心とする陸海空統合部隊(海軍自身が地上部隊や航空部隊を保有する場合もあれば、海軍が陸空軍を指揮する場合もある)を編成して防衛にあたるという体制である。

バルト海の飛び地カリーニングラード、北極圏、カムチャッカ半島などはこうした防衛体制の典型例であるが、北方領土を含むクリル諸島でも同様の防衛体制が敷かれる可能性は考えられよう。

そもそもロシアが北方領土を含むクリル諸島に部隊を配備しているのは、それらの島自体を防衛するためというよりは、島々を固守することによってその内側にあるオホーツク海を防衛するという側面が強い。

オホーツク海は核抑止力を担う弾道ミサイル原潜のパトロール海域であり、将来の北極海航路の出入り口でもあるためだ。

昨年、ロシアが国後島及び択捉島に新型地対艦ミサイル(これも太平洋艦隊所属)を配備したことについても、対日牽制というよりはこのような文脈から理解する必要があることは以前の拙稿で述べたとおりである(「ロシアが北方領土に最新鋭ミサイルを配備 領土交渉への影響は」)。

ロシア国防省はベーリング海峡に臨むチュコト半島にも太平洋艦隊所属の1個海軍歩兵師団を配備する計画を昨年明らかにしているほか、クリル諸島中部のマトゥワ島にも海軍の拠点を設置するための調査団を2015年から派遣している。

このようにしてみると、ショイグ国防省の言うクリル諸島への師団配備は、同諸島全体の防衛体制を海軍中心へと再編する動きの一環である可能性が考えられよう。

注目される日露2+2

もちろん、すでに述べたように、ショイグ国防相がいう新たな師団が北方領土に配備されると決まったわけではない。

クリル諸島の防衛強化という意味でいえば、現在は地上部隊の配備されていないほかの島が配備先という可能性もありえよう(それも師団は一つの島には大きすぎるので、複数の島に分散配備されることになると思われる)。

ただ、この場合は基地インフラなどを一から再建する必要があり、年内の配備はかなり難しそうだ。

日本政府は3月20日に東京で予定されている日露外交防衛閣僚会合(2+2)でロシア側に師団配備の真意を問いただすとしており、まずはここでのロシア側の回答が注目されよう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス対米輸出が9月に43%急増 製薬会社が関税前

ワールド

米エネルギー省、戦略石油備蓄に100万バレル原油購

ワールド

北朝鮮が東方に弾道ミサイル発射、5月以来 韓国軍発

ワールド

コロンビア、米国との対立打開へ会談 関税はトランプ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない「パイオニア精神」
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    増える熟年離婚、「浮気や金銭トラブルが原因」では…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story