コラム

ロシアの対シリア軍事介入はどこまで進むか

2015年11月27日(金)17時17分

 今後、ロシアの介入を考える上でもうひとつ気になるのは、ロシアが地上戦にまで介入するかどうかである。対IS作戦でどれだけ空爆を強化しても、最終的に地上戦を伴わなければISの壊滅が不可能であろうことは既に多くの識者が指摘している。

 だが、米国には大規模な地上部隊を派遣する意図は乏しい。かといってロシアの支援するアサド政権軍も長年の内戦で疲弊しており、ロシアの空爆やイランの民兵・特殊部隊の支援を得てもISの壊滅作戦を行うには戦力不足である。こうしたなかでロシアが地上戦により深く関与し、キャスティングボードを握れば、シリア和平をロシアにとって有利な形へと導く上で大きな効果があると考えられる。

シリアの地上戦にはどこまで出て行くか

 とはいえ、今回の介入の当初からロシアは地上部隊を派遣しないと繰り返し、シリアに入っている海軍歩兵部隊などは基地の警備と軍事顧問団としての任務を持つものであるとしてきた。

 おそらく、この説明自体は事実なのだろうが(基地警備の必要性はもちろん、壊滅したシリア軍の再建にはかなりの数の軍事顧問団が必要とされる筈である)、幾つかの気になる兆候もある。

 たとえばSNS上では、ロシア陸軍のT-90A戦車がアレッポ付近で目撃されたという情報が画像付きで相次いで投稿されるようになった。シリア周辺でT-90Aを保有するのはロシアだけである。アレッポは政府軍が攻勢を強めている地域であり、T-90Aをロシア兵でなくシリア兵が操縦しているという可能性もあるが、ひとつの興味深い動きではある。

 また、18日にプーチン大統領が国防相の会議に参加した際、背景のスクリーンに映し出されたシリアの作戦地図に「第120親衛砲兵旅団」との文字が入っていたことも話題になった。調べてみると、同旅団は中央軍管区の第41軍に所属する砲兵部隊であるという。

 このようにしてみると、ロシアは最前線に歩兵を送り込むことまではしないにせよ、「警備部隊」や「軍事顧問団」の一部を後方からの火力支援に投入している可能性は否定できない。もし、このような形でロシアが地上戦に参加しているのだとすれば、その規模が増強されることはあるのか、さらに踏み込んだ地上戦への介入は本当に行われないのか、などが今後の焦点となろう。

 トルコとの関係悪化によって霞んでしまっている感があるものの、本来の焦点であるロシアの対シリア介入からも目を離さずにおきたい。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エアバス、ポーランド航空から40機のA220受注契

ワールド

米共和党、7500ドルのEV税額控除廃止を提案

ビジネス

日米首脳会談、関税合意に至らず 「協議加速を閣僚に

ワールド

ロシア、ウクライナ首都に大規模ドローン攻撃 11人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染みだが、彼らは代わりにどの絵文字を使っている?
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story