コラム

井ノ原快彦アイランド社長も難色を示していた「NGリスト」...配布の強行と失敗はとても「日本的」だった

2023年10月18日(水)16時40分

イギリスでは、BBCの人気番組『トップ・オブ・ザ・ポップス』の名物司会者ジミー・サビルによる「イギリス史上空前の性犯罪」とされる性加害が、11年に本人が死去した翌年に発覚。

国民的関心事になり、サビルの墓石撤去など、生前の功績を遡及的に「キャンセル」する動きが生じた。それとともに、警察が大規模に捜査し(イギリスでは性犯罪に時効はない)、疑惑を隠蔽していたBBCに対して独立調査委員会による調査が行われた。

ジャニーズの「焦燥感」

これに対して日本では、長年にわたり「公然の秘密」として隠蔽されてきたジャニー喜多川氏による児童や少年への性加害に対して、沈黙という不作為を続けてきたジャニーズ事務所やメディアを含む関係者による自己検証の動きはまだ鈍い。


「NGリスト」を先んじて報じたNHKも、局舎内で性加害が行われていたという被害者の証言を新たに報じており、性虐待疑惑を隠蔽し批判を浴びたBBCの二の舞いになる恐れを抱えている。

「ビジネスと人権」という国際潮流を背景にした企業による広告契約見直しの動きと圧倒的な世間の批判を前に、ジャニーズ事務所は焦燥感を募らせているようにも見える。

広報担当元副社長が主導したとされるメディアコントロールは、今回の会見における拍手やヤジの一部に影響力の残滓が見受けられはしたが、もはや通用しない。

頼りの危機管理担当法律事務所は、企業の存亡を賭けた記者会見運営をFTIに任せ、FTIは運営末端の管理が行き届かなかったが故にクライアントのインテグリティ(誠実性)に疑問符を付ける失態を演じた。

今回のNGリスト問題は、起きるべくして起きた事態だったとも言えるだろう。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:値上げ続きの高級ブランド、トランプ関税で

ワールド

訂正:トランプ氏、「適切な海域」に原潜2隻配備を命

ビジネス

トランプ氏、雇用統計「不正操作」と主張 労働省統計

ビジネス

労働市場巡る懸念が利下げ支持の理由、FRB高官2人
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 10
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story